欲望のバージニア

2013/04/18 ギャガ試写室
1930年代の密造酒製造業者を主人公にした異色ギャング映画。
描かれているのは中央と地方の対立だ。by K. Hattori

13041801  1920年代から30年代にかけて、アメリカでは禁酒法が施行されていた。といっても人々が酒と完全に手を切ることは難しく、結果として海外から密輸入された酒や、国内で密造された酒が出回ることになる。ご禁制の品は利幅の拾い商品として裏社会の流通経路に乗り、これがアメリカ各地で犯罪組織を肥え太らせることになった。密造酒の利権を巡って犯罪組織同士の抗争事件も頻発し、犯罪組織を取り締まる警察や検察との衝突も起きた。クリーンな社会を作ろうとした禁酒法が、結果としてアメリカ社会をひどくダーティなものにしてしまったのだ。アメリカの多くのギャング映画は、この禁酒法時代を舞台にしている。

 本作『欲望のバージニア』の原作は、禁酒法時代にバージニア州で密造酒を造っていたボンデュラント兄弟の物語を、兄弟の子孫が書いたノンフィクション小説だ。とはいえこの話は原作の段階で、既にかなりの作り話が盛り込まれているらしい。80年ほど前の話とはいえ、ボンデュラント兄弟は地元の有名人として伝説化しているそうだ。そのため数々の逸話には尾ひれが付いている。そもそもアメリカ南部はホラ話の伝統があるから、実話と作り話の間にあまり明確な区別をしないのかもしれない。映画の中では登場人物のひとりが、「不死身のボンデュラント兄弟」という伝説に引っ張られて荒唐無稽な超人になってしまうエピソードが出てくる。彼らはこの映画の中で、最初から伝説の中を生きているのだ。

 映画は禁酒法時代を背景にしたギャング映画のバリエーション(変種)だが、ボンデュラント兄弟自身はギャングではない。この映画は従来のギャング映画では脇役だった密造酒製造業者の視点から、禁酒法時代を描いているのだ。ここには本職のギャングが出てくるし、密造酒を取り締まる捜査当局も出てくる。機関銃がぶっ放されて人が死んだり、殺し屋が現れて殺されかけるなど、血なまぐさい場面もたくさん出てくる。しかし主人公たちは悪人ではないし、ことさら暴力を好む人間たちでもない。ここに出てくる密造酒製造業者たちの人柄や立場は、西部劇に出てくる農民に通じるものがある。そこにあるのは独立心旺盛な開拓民の子孫たちが、自分たちの手で自分たちの食い扶持を稼いでいる姿だ。

 アメリカ人にとって禁酒法時代の密造酒造り自体は、特に悪いことではないらしい。現存するアメリカの酒造メーカーの多くは、禁酒法時代に何らかの形で密造酒を造りを続けていたのだ。だが法を破っているのは、密造業者にとって官憲に対する弱味ではある。その弱みに付け込んで、甘い汁を吸おうとする者もいる。この映画で悪とされているのは、政府の権力を笠に着て、アメリカ人の独立精神を食い物にしようとする男だ。この映画からはアメリカにおける地方自治、中央と地方の対立関係といった、今日なおアメリカ社会を特徴づけている事柄も見えてくる。

(原題:Lawless)

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6月29日公開予定 丸の内TOEI、新宿バルト9
配給・宣伝:ギャガ パブリシティ:メゾン
2012年|1時間56分|アメリカ|カラー|シネスコ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://yokubou.gaga.ne.jp
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:Lawless
サントラCD:Lawless
サントラCD:欲望のバージニア
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