ロシアの文豪トルストイの同盟長編小説「アンナ・カレーニナ」を、キーラ・ナイトレイ主演で映画化した長編メロドラマ。19世紀末のロシア上流階級を舞台に、夫と子供がありながら若い士官ヴロンスキーと出会って恋に落ちるヒロインの悲劇を描く。モスクワで偶然ヴロンスキーに出会ったアンナは彼に心引かれつつも、その思いを振り払うように夫と子供の待つペテルブルクへ戻る。だがヴロンスキーは彼女を追ってペテルブルクへ。彼への思いを理性で押し殺そうとするアンナだったが、やがて恋の濁流が彼女を呑み込んでしまう。この関係は社交界のゴシップとしてあっと言う間に広まるが、アンナの夫はかたくなに離婚に応じない。やがてアンナはヴロンスキーとの子供を妊娠。夫と別居したことで息子と離れ離れになり、ヴロンスキーが別の女のもとに向かうのではないかという疑惑と嫉妬に責めさいなまれながら、アンナの心は少しずつ闇に蝕まれてゆく……。
何度も映画化されている小説だが、ここでは接点を持ちながらも相互に無関係な2つの物語が同時進行して行く。アンナとヴロンスキー、アンナの夫カレーニンの三角関係がメインだが、アンナに恋人のヴロンスキーを奪われたキティと、彼女に想いを寄せるリョーヴィンの関係が同時に描かれる。アンナとキティの立場は対称的だ。キティはヴロンスキーと別れることで精神を病むが、リョーヴィンのひたむきな愛に支えられて彼と結婚し、田舎の領地で幸福な家庭を築くはずだ。一方アンナはヴロンスキーと結ばれることで、家庭を壊し、誰もいない屋敷の中で孤独と罪の意識に苦しめられ、最後はモルヒネ中毒で精神を病んで自殺する。映画の欠点はこのヴロンスキーが女たらしの疫病神にしか見えないこと。確かにイケメンではある。だが魅力的な若い女性ふたりを虜にするほど、チャーミングな男には見えないのだ。ヴロンスキーを演じているのは『キック・アス』のアーロン・テイラー=ジョンソンだが、今回の役はちょっと気の毒なぐらいに魅力の薄いキャラクターになっている。
カレーニンを演じるのはジュード・ロウ。今回の映画は、このカレーニンを分別も愛情も持ち合わせた立派な男として描いている。カレーニンはただ自分の体面を守るために離婚に応じなかったのではない。彼は妻を愛しているがゆえに、妻がいつかは元の家庭に戻ってくることを願っていたのだ。しかしこうしてカレーニンが立派であればあるほど、その家庭を破壊するヴロンスキーとアンナの恋の愚かさが引き立ってしまう。色恋沙汰を理性で断罪しても無意味だが、この映画に描かれているアンナの恋からは、理性や分別を吹き飛ばしてしまうほどの圧倒的な力が感じられない。
これに比べると、キティとリョーヴィンの恋は丁寧に描かれていて好印象。積み木を使ったプロポーズの場面は、この映画の中でも随一の名場面だと思う。
(原題:Anna Karenina)
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