ヒッチコック

2013/02/26 FOX試写室
1960年製作の映画『サイコ』はこうして作られた。
主演はアンソニー・ホプキンス。by K. Hattori

13022601  1960年に公開された『サイコ』は、サスペンスの神様と呼ばれたヒッチコック監督が、生涯で初めて作ったショッカームービーだった。本作『ヒッチコック』はこの歴史的映画の舞台裏を、ヒッチコックとその妻アルマの視点から描いた作品。映画の製作過程はほぼ実話のままだが、夫婦の私生活についてはほとんどフィクションだろう。原作は『サイコ』製作の裏話を豊富なインタビュー取材で明らかにした、スティーヴン・レベロの「ヒッチコック&メイキング・オブ・サイコ」。ただしこの原作本にはアルマがほんの少ししか出てこないし、脚本家のウィットフィールド・クック(ヒッチコックの『舞台恐怖症』や『見知らぬ乗客』の脚本家)を巡るドタバタなんてまったく出てこない。またヒッチコックの金髪女優に対する変質的なこだわりや、映画のモデルになった殺人犯エド・ゲインにまつわるエピソードなども、原作以外から持ってきて肉付けされたものだ。実話をもとにした話が3分の1で、映画的な虚構が3分の2ぐらいの比率だろうか。

 ヒッチコックを演じているのは名優アンソニー・ホプキンス。僕はずいぶん前に、この俳優の名前と『サイコ』の主演俳優アンソニー・パーキンスの名前がよくごっちゃになったものだが、この映画の中ではアンソニー・ホプキンス演じるヒッチコックが、ジェームズ・ダーシー演じるアンソニー・パーキンスとからむシーンがあってニヤニヤしてしまった。ちなみにダーシーは実際のパーキンスによく似ているが、ホプキンスはヒッチコックにぜんぜん似ていないのが残念。この役を演じるなら他にも体型や風貌が似ている俳優がいたと思うのだが、この映画はホプキンスが持っている英国人のたたずまいと超然としたカリスマ性を優先したのだろう。おそらく今後も、これ以上の大物俳優がヒッチコックを演じることはないだろう。

 映画ファン的な視点でこの『ヒッチコック』を観ると、どうしても気になるのは『サイコ』製作にまつわるさまざまなエピソードが、どのように再現されているかだろう。しかしこの映画では、有名なシャワーシーンの演出にタイトルデザイナーのソウル・バスが関わっているという話が出てこない。これは映画『サイコ』にまつわる有名なゴシップだし、原作「メイキング・オブ・サイコ」でも大きく取り上げられているので、劇中からカットされてしまったのは残念。

 だがこれは結局、この映画の焦点が映画製作そのものより、ヒッチコック夫妻の夫婦関係にあるからだろう。糟糠の妻としてヒッチコックの生活を30年以上にわたって支えてきたアルマは、初期のヒッチコック作品を支えた優れた脚本家でもあった。仕事のできる女が仕事のできる男と結婚して子供を生み、結局は仕事を離れてしまったわけだ。この映画は『サイコ』製作にかかり切りになるヒッチコックを、家の中で才能を持てあましている妻の視点から描いているのが面白い。

(原題:Hitchcock)

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4月5日公開予定 TOHOシネマズシャンテ
配給:20世紀フォックス映画 宣伝:樂舎、ユー・スタッフ
2012年|1時間39分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|ドルビー、ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.foxmovies.jp/hitchcock/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:Hitchcock
原作:ヒッチコック&メイキング・オブ・サイコ 改訂新装版
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