ブルーノのしあわせガイド

2013/02/15 シネマート六本木(スクリーン3)
売れない独身中年作家が突然父親になってしまう話。
脚本の筋運びにキレがあって面白い。by K. Hattori

13021501  小説家として一本立ちすることを夢見ながら、今は有名タレントのゴーストライター稼業をしている中年作家ブルーノ。かつて教師だったという経歴を生かして、一人暮らしの自宅で補習講師のアルバイトもしている。そんな彼に、ある日受け持ち生徒の母親から急な相談事が持ちかけられた。仕事でしばらくアフリカに出張しなければならないので、その間、息子のルカを預かってほしいというのだ。「預かるのが無理ってわけじゃありませんが、なんだって私にそんなことを頼むんですか?」「それは……、あの子があなたの息子だからですわ」「はああ?」「先生、私のことが誰だかわかりませんか?」。そう言われて記憶をたぐるブルーノの脳裏に、ひとりの名前が浮かび上がる。「ひょっとして、君はマリーナかい!」。彼女はブルーノが15年前に、一度だけ関係を持った女性だ。彼女はそれで妊娠し、ひとりで生んでこれまで育ててきたというのだ。かくしてブルーノは突然現れた息子と、馴れない同居生活をすることになるのだが……。

 長い独身貴族生活を送ってきた男が、突然現れた思春期の息子に戸惑い、彼の学業や素行の悪さにやきもきするという物語。起きている出来事は結構大変なことなのだが、映画はそのあたりをサラリと軽く流してコメディ調に仕上げている。もちろんこんなものをシリアスにやられると大変な大事件になってしまうので、これはコミカルにやってくれるのが有り難い。そこそこの年になって、過去に女性たちとそこそこの交際経験を持つ男なら、同様の事件に巻き込まれる可能性は誰しも持っているだろう。これは世界中どこでも起きている、晩婚少子化時代のファンタジーみたいなものだ。

 そんなわけで映画に登場する設定は今なればこそだが、映画のテーマは未来に対する夢や希望とうい古典的なものだと思う。ここには未来の夢や希望について異なった態度を取る、何種類かの人間が登場する。主人公のブルーノは、夢を諦めかけている人間だ。かつて彼には小説家になるという夢があった。だが最近の彼は、小説を1行も書いていない。ゴーストライター稼業と補習講師の仕事に甘んじて、怠惰なその日暮らしの生活にかまけているのだ。息子のルカはそれよりもっと悪い。彼は15歳にして、もはや未来に対する夢を投げ出してしまっている。行く手には夢も希望もない。このままだと路傍で麻薬の売人にでもなるしかない。そういう崖っぷちの状況だ。映画はこの二人が出会って、自分たちの新しい夢や希望をつかみ出す様子を描いている。

 主人公と同じようにライター稼業をしている僕から観ると、これはできすぎた話だとは思う。でもいいのだ。これはファンタジーなのだから。監督・原案・脚本のフランチェスコ・ブルーニはこれが監督デビュー作。イタリアの映画賞ではいくつかの賞を受賞するなど、高い評価を受けている作品だという。

(原題:Scialla!)

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春公開予定 シネスイッチ銀座
配給:アルシネテラン
2011年|1時間35分|イタリア|カラー|1.85:1|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.alcine-terran.com/bruno/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:Scialla
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