レ・ミゼラブル

2012/12/31 甲宝シネマ(スクリーン1)
名曲揃いの人気ミュージカルを豪華キャストで完全映画化。
2時間半以上の長丁場だが最後は感動。by K. Hattori

Lesmiserables  ビクトル・ユゴーの小説「レ・ミゼラブル(ああ無情)」は何度も映画化されているが、これは1985年にロンドンで初演された同名ミュージカルの映画版。日本でも1987年から翻訳上演が行われているが、それ以来用いられている岩谷時子の訳詞が今回の映画の字幕の下敷きになっている。主人公ジャン・バルジャンを演じているのはヒュー・ジャックマン、ジャベール警部はラッセル・クロウ、フォンテーヌにアン・ハサウェイと、ハリウッド映画のスターたちがずらりと顔を揃えた豪華キャスト。長大な原作小説を2時間半にまとめているので、ストーリーそのものはかなりのダイジェスト版。それでも寸詰まりな印象があまりないのは、物語全体を歌で表現するというミュージカル手法によるところが大きい。何しろミュージカルというのは、出会ったばかりの男女が1曲歌って踊る間に相思相愛になってしまうという、時間の節約に向いた表現技法なのだ。監督は『英国王のスピーチ』のトム・フーパー。

 ミュージカル映画は事前に楽曲をすべて録音しておき、撮影時には俳優がそれに合わせて口を動かすのが常識だ。この手法のメリットは、好条件のスタジオで歌だけ録音できるので、歌が苦手な俳優を吹替で歌わせてしまえることにある。(例えば『マイ・フェア・レディ』のオードリー・ヘップバーンや『ウエストサイド物語』のナタリー・ウッドは、別の歌手が歌だけ吹き替えている。)しかし本作『レ・ミゼラブル』は原則同時録音。ミュージカルとしてはこの方が自然なのは当然だが、必ずしも本格的な歌のトレーニングを受けていない映画俳優たちに歌わせるというデメリットもある。一長一短で、どちらがいいとは言えないだろう。だが本作では歌唱シーンで俳優のクロースアップを多用することで、俳優の演技と歌の相乗効果を生み出すことに成功している。

 圧巻は身を持ち崩したフォンティーヌが歌う「夢やぶれて」だろう。これはオーディション番組でスーザン・ボイルが歌って世界中に衝撃を与えた曲だが、映画版ではアン・ハサウェイが全身から絞り出すような切々たる感情表現でこの曲を歌いきる。歌が特別上手いわけではないのだが、映像がそれを補って名場面たり得ているのだ。映像表現に助けられているのはラッセル・クロウも同じで、彼が歌う「星よ」は本来もっと声量のある歌手のための曲だと思うが、映画版では彼のボソボソとこもった悪声でもさほど見劣りする場面にはなっていない。だが逆に映画であるがゆえに、迫力が減じてしまったであろう場面もある。舞台版で第1幕のフィナーレとなる「ワン・デイ・モア」は、本来別々の空間にいるはずの複数の登場人部たちが、同じ舞台空間を共有して多重唱になる舞台作品ならではのスペクタクルなのだが、これをカットで割ってしまうと映像としては普通なのだ。またエポニーヌの歌う名曲「オン・マイ・オウン」も、映像的な演出に物足りなさがあるように思う。

(原題:Les Miserables)

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12月21日公開 TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:東宝東和
2012年|2時間38分|イギリス|カラー|1.85:1|ドルビーデジタル、Datasat、SDDS
関連ホームページ:http://www.lesmiserables-movie.jp
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:レ・ミゼラブル
サントラCD:Les Miserables
原作:レ・ミゼラブル(ビクトル・ユゴー)
原作:ああ無情(ビクトル・ユゴー)
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