リトル・マエストラ

2012/11/29 ショウゲート試写室
寂れた港町のアマチュアオーケストラを天才少女指揮者が救う。
いろいろな部分で残念な映画。by K. Hattori

Littlemaestra  かつては漁業で栄えた石川県志賀町福浦には、町の住民たちによるアマチュア交響楽団「福浦漁火オーケストラ」がある。だが指揮者が急死したことで、オーケストラは存亡の危機に。こんな時オケのメンバーが頼りにするのは、楽団唯一の音大出身者みどりだ。みどりが新たな指揮者として町に招いたのは、亡くなった指揮者の孫娘でアメリカに音楽留学しているという美咲。だがやって来た美咲は、不機嫌な顔でガムを噛む茶髪の女子高生だった。美咲によれば祖父の話は全部ウソで、自分は高校のブラスバンドでほんの少し指揮をやっていた程度だと言う。だが今さらオケのメンバーの期待は裏切れない。みどりは美咲を天才少女指揮者としてメンバーに紹介し、美咲も見事なバケっぷりでオケを指導しはじめるのだが……。

 いろいろな点で残念な映画だ。出演者の顔ぶれは結構豪華で厚味があるし、ロケを誘致した自治体の協力でローカル色豊かないい風景が撮れている。しかし完成した映画はイマイチなのだ。映画の方向性としては、ユアン・マクレガーとピート・ポスルスウェイトが主演した炭鉱町ブラスバンドの奮闘記『ブラス!』(1996)の日本版を目指しているのだろう。テーマ曲がエルガーの「威風堂々」になっているところまで同じだ。『ブラス!』はいい映画だったが、『リトル・マエストラ』がいまいちに終わったのは、脚本の完成度に天と地ほどの開きがあるからだ。『ブラス!』ではロイヤル・アルバート・ホールでの演奏会が映画のクライマックス、感動のピークになるよう脚本が作られている。ところが『リトル・マエストラ』は終盤にドラマが蛇行してしまい、映画のクライマックス、感動のピークがどこにあるのかがわからない。

 音楽映画としては、使用楽曲が「威風堂々」しかないとういのが弱点。『ブラス!』はクライマックスの「威風堂々」以前に、「アランフェス協奏曲」でビックリさせたり、「ダニー・ボーイ」でたっぷり泣かせたりしていたが、『リトル・マエストラ』は基本的に「威風堂々」しかないのだ。しかも「威風堂々 第1番」の中間部だけを、不自然に何度も何度も繰り返す。演奏シーンの練習は時間も手間もかかるだろうが、どうせ吹替なんだからあと2〜3曲演奏させてやればいいのに。どんな下手くそな楽団でも、得意なレパートリーが5〜6曲はあるはずだ。これは上手下手の問題ではない。集まるたびに「威風堂々」のトリオの部分だけ演奏しておしまいなんて、そんなのすぐに飽きてしまうではないか。

 一番残念なのは、音楽映画でありながら音楽に対する愛情があまり感じられない映画になってしまっていることだ。少人数のオーケストラなのに、演奏会直前にメンバーが何人か抜けてしまったりするし、ケースに入っているとはいえ楽器を水たまりの中に置いたりする。何か意図があってそうした筋立てや演出になっているなら仕方ないが、この映画の場合は単にそうしたことに無頓着なのだろう。

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12月1日公開 石川県先行公開
2月1日公開予定 有楽町スバル座
配給宣伝:アルゴ・ピクチャーズ
2012年|1時間48分|日本|カラー|1:1.85|5.1chステレオ
関連ホームページ:http://little-maestra.jp
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
原作:リトル・マエストラ(夕希実久、いずみ組)
コミカライズ:リトル・マエストラ(大谷紀子)
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