悪人に平穏なし

2012/11/28 松竹試写室
酔った勢いで人を殺した刑事が証拠隠滅に奔走する。
実在のテロ事件をモデルにした作品。by K. Hattori

Akuninni  ほんの数年前まで警察の特殊部隊に所属し、誰もが認める優秀な刑事だったサントス。だが今は署内で行方不明係という閑職に就き、時折他部署の応援に駆り出されるだけの飲んだくれ刑事になっている。ある夜、明け方近くまで飲んでいたサントスは、たまたま入った店でトラブルを起こし、店内にいたオーナーや従業員たち3人を射殺してしまう。はっと我に返っても後の祭り。かくなる上は証拠を隠滅して逃げるしかない。他の従業員がいれば口封じをし、店内の防犯カメラの記録メディアを持ち去るのだ。だがサントスはこの時、ひとりの若い男に逃げられてしまう。万事休すか。だが翌日になっても、逃げた男は警察に通報する気配がない。サントスは警察のデータベースを検索して、自分が殺した相手や逃げた男の素性を調べはじめる。一方サントスが起こした殺人事件を捜査しはじめた警察は、店が麻薬密売やテロ組織と関係があることを突きとめる。サントスは偶然、犯罪組織の拠点のひとつで事件を起こしていたのだ……。

 2004年3月にスペインのマドリードで起きた、同時多発テロ事件をモデルにしている映画だという。ただし主人公サントスは狂言回し的に登場する架空の人物で、彼が追い詰めていくことになるテログループの犯行手口が実在の事件をモデルにしているのだと思う。タイトルは旧約聖書のイザヤ書57:21からの引用で、「神に逆らう者に平和はない」という意味。しかしここでは誰が「神に逆らう者」なのか。それは飲んだくれ刑事なのか。それともイスラム過激派のテロリストなのか。映画を観ていてもそれは判然としない。この映画は悪人である主人公が、自らの悪事を隠蔽するために悪人たちを追いかけていくドラマなのだ。

 登場人物の心理描写が極端に削ぎ落とされていて、映画を観ていても登場人物が何を考えているのかがわからない演出になっている。観客は画面に写されている情報から、登場人物が今何を考え、どんな目的のために行動しているのかを読み解いて行かなければならない。だが映画の中で最後まで読めないのはサントスだ。彼は当初、自らの衝動的な殺人を隠蔽するため行動していた。しかし殺した相手や逃げた男の正体を探る中で、自分が相手にしていたのがテロ組織であることに気づく。だが捜査の発端が自分の犯した犯罪である以上、警察組織の支援を得ることはできない。彼は巨大なテロ組織に、ひとりで立ち向かわざるを得なくなる。

 彼を危険な捜査に突き動かしていた動機は何だろうか? それは自らの犯罪を隠蔽したいという、犯罪者の心理だったのだろうか? それともテロ組織の犯行を未然に防ぎたいという、警察官としての心理だっただろうか? 映画を観ていてもそのあたりが判然とせず、そのわかりにくさが、サントスという人物の魅力になっている。わかりにくいが故に、このキャラクターに血が通っているのだ。リアルなのだ。

(原題:No habra paz para los malvados)

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2月9日公開予定 ヒューマントラスト渋谷
配給:シンカ
2011年|1時間54分|スペイン|カラー|デジタル
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