ニーナ

2012/10/22 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(4)
夏のローマで空白の時間を埋めるヒロイン、ニーナ。
友だち以上、恋人未満の心地よさ。by K. Hattori

25tiff  夏のバカンスシーズンになると、ヨーロッパ各地の都市部からは人の姿が消える。観光地には海外からの観光客がやって来るが、住宅街や学生街は閑散としたものだ。ローマ郊外の住宅街からも多くの人が消えてしまうが、この映画の主人公ニーナはローマに残っている。9月に北京に留学する予定があり、そのための待機中なのだ。準備はあらかた終わっているので、今は特にやることはない。空いた時間を使って、バカンスに出かけた家庭のペットの世話をしたり、学校で声楽のコーチをしたり、中国の文字を習ったりして時間を過ごす。だがそんなニーナの前に、ひとりの男性が現れた……。

 白っぽいパステル調の画面に、中性的なムードを漂わせるショートカットのヒロイン。映画の導入部はずいぶんと「オシャレ」なものだ。しかしこの「オシャレ」が少々鼻につく。映画を観ていると物語自体は日常的でありふれたものなので、その分を映像的なお遊びで埋めているのかもしれない。

 ヒロインは中国留学までの「空白の時間」を持てあましている。残った時間はわずかだから、そこで何か新しい計画を立てたり、大きな仕事をすることは出来ない。だからこそ彼女は、ペットシッターの仕事をしたり、空き時間に声楽のコーチをしたり、中国語の毛筆カリグラフィー(習字)のレッスンを受けたりして時間を潰していく。ところがそこに思いがけず、素敵な男性が現れる。相手は彼女に好意を持ち、彼女も相手に好意を持つ。だがここから恋愛など始めたら、中国に行けなくなってしまうかもしれない。ヒロインは男性との距離を取るようになる。しかしこれは結局、ヒロインが恋愛に深入りしないための口実に過ぎないのだ。

 この映画が描いているのは、恋の入口にあるときめきの楽しさと心地よさだ。「友だち以上、恋人未満」の中途半端な関係こそが恋愛の旬であり、恋に深入りしてしまえば互いの嫌なところも見えてくる。相手の嫌なところも見えるだろうし、恋愛によって露わになる自分の嫌なところにも気づかされてしまう。だから最初から深入りしない。そのための言い訳を、最初からあれこれ用意しておく。

 そういう意味で、この映画を「恋愛映画」と呼ぶのはちょっと気が引ける。正確を期して言うならば、「友情以上、恋愛以前映画」とでも名付けるべきだろうか。しかしながら、このヒロインに共感する人は多いようにも思う。気の合う異性と一緒に時を過ごすけれど、互いの生活領域にまでは侵入しない。肉体的な接触は軽いキス程度でストップ。これはこれで、悪くない関係かもしれない。ネットを介したバーチャルな恋愛で、ちょっとドキドキするような気持ちを味わいたいと思っているような人には、この映画のヒロインの姿はまさに理想だろう。もっとも相手の男から見れば、彼女の姿勢はやはり煮え切らない中途半端なものなのだろうけれど……。

(原題:Nina)

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10月24日・25日上映 TOHOシネマズ六本木ヒルズ
25th TIFF 東京国際映画祭 コンペティション
配給:未定
2012年|1時間18分|イタリア|カラー|シネマスコープ
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