アクセッション

増殖

2012/10/22 TOHOシネマズ六本木ヒルズ(4)
女友達からHIV感染を告げられた青年の運命は……。
うんざりしてしまうがこれも現実。by K. Hattori

Accession  南アフリカの都市郊外にあるスラム。仕事もなく日がな一日スラムの中をぶらついている青年のお楽しみは、女友達とのセックスだ。仕事の意欲はあるが、なかなかこれといった職は見つからない。わずかばかりの金が入れば、友だちと酒を飲む。酒が入ればナンパしに行く。他にやることがないのだからしょうがない。しかしそれは女たちも同じこと。スラムの中では若い男と女たちが、さかりの付いた犬のようにあちらでもこちらでも昼夜構わずセックスをしている。セックスはスラムで暮らす若者たちにとって、最も身近で手軽な娯楽なのだ。

 主人公の青年は道で出会った顔なじみの女を、人通りの少ない野原に誘い出す。「久しぶりだな。ここで一発やろうぜ」「わたし忙しいのよ。これから医者に行くの」「なんだよ風邪でもひいたのか。構わないよ、すぐ終わるからやろう」「だって10分しかないのよ」「10分あれば終わるよ。だからやろうぜ」「もういい加減にしてよ。わたしHIV(エイズウィルス)に感染してるの。あなたも医者で調べてもらった方がいいわよ」。女は立ち去ったが、青年の心の中には女の言葉がどんよりと暗い影を落とす。南アフリカのHIV感染率は非常に高く、成人の2〜3割がHIVに感染しているというありさまだ。HIVやエイズは、南アフリカ人にとって最も身近な病気になっている。

 自分はHIVに感染したかもしれない。いや、おそらく感染しているだろう。そう考えた青年は自暴自棄になって、恋人に暴力を振るったりする。別の女友達と荒々しいセックスをしたりする。だが気持ちはまったく晴れることがない。そんな時に聞きつけたのが、友人が教えてくれたHIV治療法だ。「HIVなんて恐くねえよ。処女とセックスすると処女膜が破れて血が出るだろ。あれでHIVなんてピタリと治っちまうんだよ。ガハハ」「んなバカなことあるわけねえじゃん!」。とは言ったものの、青年の頭の中には友人の言葉がしっかりと刻印される。処女とやれば治る。処女とやれば治る。処女とやれば治る。寝ても覚めてもその言葉が頭から離れない。

 映画全編にわたって主人公の青年のクローズアップが続き、観客が否応なしに彼の愚かな行為の数々を間近に見ることを余儀なくさせられるというキツイ映画。この映画で紹介されている「処女とセックスすればHIVが治る」というのは南アフリカで実際に広まっている民間療法で、このため若い女性のレイプ事件が後を絶たないという。だが冒頭に書いたように、セックスそのものが身近な娯楽になっている南アフリカでは性体験の低年齢化も進んでいる。若い女性のレイプ被害者も多い。そのため「処女とセックスする」と言っても、その処女を探すのが大変なのだ。そこでどうするかというと、この映画の主人公のような非道をやらかす。映画はフィクションだが、ここで描かれている内容はノンフィクションだ。

(原題:Accession)

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10月23日・27日上映 TOHOシネマズ六本木ヒルズ
25th TIFF 東京国際映画祭 コンペティション部門
配給:未定
2012年|1時間18分|南アフリカ|カラー|1.78 : 1|ステレオ
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