恋のロンドン狂騒曲

2012/10/11 松竹試写室
恋することでどんどん不幸になって行く人生の悲喜劇。
ウディ・アレンの話芸につい引き込まれる。by K. Hattori

Koinorondon  恋は素晴らしい。恋は小心な臆病者を勇者へと変身させ、訳知り顔の大人を繊細な少年へと若返らせる。恋の力で野暮天男は詩人になり、恋の力はどんな美容術よりも女性を美しく輝かせる。だが一方で、恋は世界一の賢者を愚か者に変え、長年に渡って築き上げた信用と信頼を傷つけ、大切に守ってきた人生を破滅へと追いやることもある。この映画は、そんな恋の恐ろしさについて描いた、ウディ・アレンの恋愛喜劇映画だ。登場人物たちは誰しもが、この映画の中で新しい恋に出会い、その恋によってどんどん不幸になって行く。

 2010年に製作された映画だが、日本公開は本作の次に製作された『ミッドナイト・イン・パリ』と前後することになった。まあそれでもウディ・アレンの作品には日本未公開がほとんどないのだから、日本人はやはりアレンの映画が大好きなのだろう。固定客がいて成績がつかみやすい面もあるかもしれないが、この人気が1970年代から一貫して維持されているのだから大したものだ。最新作の『To Rome with Love』も、既に来年夏の日本公開が決まっている。さすが、ウディ・アレン!

 「人生はクローズアップで見れば悲劇、ロングショットで見れば喜劇だ」とは、アメリカの喜劇王チャップリンの名言。『恋のロンドン狂騒曲』はまさに、他人の人生をロングショットで見た喜劇だと思う。個々のエピソードを詳細にながめれば、どれも他愛のない喜劇とは言えない深刻な問題ばかりだ。若返りに取り憑かれて長年連れ添った妻を捨て去り、あばずれの若い妻と結婚して身ぐるみはがれる老人がいる。夫に捨てられた女は、インチキ占い師の託宣に全人生を委ねてオカルト趣味に突っ走る。過去の成功を忘れられない一発屋の作家は、窓から姿を見かけた若い女を口説くことで、仕事が上手く行かない現実から逃避する。夫に愛想を尽かした妻は、勤めはじめた画廊のオーナーに道ならぬ恋をする。個々のエピソードは独立していて、全体の構成はグランドホテル形式。しかし各エピソードのテーマは「恋が生み出した愚かしい出来事」という点で一致している。

 登場人物が大勢いる集団劇では、登場人物の内の少なくとも何人かは、観客にとって身近で感情移入しやすい、自分にとっての分身のような人物になっているものだ。しかしこの映画を観て、僕は登場人物の誰にも共感できなかった。おそらく多くの人が、同じように感じるのではないだろうか。これは「愚かしさが生み出す喜劇」だから、観客が人物に感情移入してしまうと、その喜劇が「ロングショットの喜劇」として機能しなくなってしまう。登場人物たちは観客にとってみんな赤の他人。誰にも共感できず、誰にも感情移入なんてできない。

 しかしそれでいながら、登場人物たちの人物像は明確で、どれもリアルなキャラクターに仕上がっている。愚かな人間ではあっても、みんなどこかしらチャーミング。これがウディ・アレンの映画なのだ。

(原題:You Will Meet a Tall Dark Stranger)

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12月1日公開予定 TOHOシネマズシャンテ
配給:ロングライド 宣伝:樂舎
2010年|1時間38分|アメリカ、スペイン|カラー|アメリカン・ビスタ|ドルビー・デジタル
関連ホームページ:http://koino-london.jp
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:You Will Meet a Tall Dark Stranger
サントラCD:You Will Meet Tall Dark Stranger: From Motion
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