リンカーン/秘密の書

2012/10/05 20世紀FOX試写室
リンカーン大統領は凄腕のヴァンパイアハンターだった。
ティム・バートン製作の3Dアクション映画。by K. Hattori

Lincoln  アメリカ人に「歴史上最も偉大なアメリカ大統領は?」というアンケートを採ると必ずナンバーワンの座を獲得するのが、第16代合衆国大統領エイブラハム・リンカーンだ。奴隷制の存否を巡って国家が分裂して内戦状態(南北戦争)に陥った際、ねばり強く戦いを指揮して合衆国の分裂を食い止め、奴隷解放を成し遂げた。1863年のゲティスバーグ演説にある「人民の、人民による、人民のための政治」という言葉は、民主主義を象徴する言葉として広く人口に膾炙している。だがそのリンカーンには、人々に知られていない別の顔があった。それは人間に混じって活動する吸血鬼たちと戦う、ヴァンパイア・ハンターとしての顔だった。

 ヴァンパイアは太古の昔から人間社会に寄生して生きてきた。社会が近代化してその生息場所は狭められたが、19世紀初頭のアメリカに存在した奴隷制は、ヴァンパイアたちの大切な食料を確保する命綱だった。少年時代のリンカーンは幼なじみの黒人少年が奴隷商人に連れ去られそうになるのを止めたことで、奴隷商人に母を殺されてしまう。大人になって母の仇を探し出したリンカーンは、自分の戦う相手が人間ではないことを知った。リンカーンはヘンリーという男に助けられ、ヴァンパイアと戦うための手ほどきを受ける。戦士としての訓練を終えてスプリングフィールドに移住したリンカーンは、町の人に紛れて暮らすヴァンパイアたちをひとりずつ始末していく。だがここで問題が発生する。「ヴァンパイアに弱味を見せないためにも家族を作るな!」と師匠のヘンリーから固く命じられていたにも関わらず、リンカーンは良家の令嬢メアリーと恋に落ちてしまうのだ。

 原作・脚本はパロディ小説「高慢と偏見とゾンビ」のセス・グレアム=スミスが書いた「ヴァンパイアハンター・リンカーン」。もともとテレビの脚本家だったという彼は、ティム・バートン監督の『ダーク・シャドウ』に映画脚本家として参加し、それが本作へとつながったようだ。バートンは本作のプロデューサーだが、バートンとグレアム=スミスのコンビはさらに『ビートルジュース2』も準備中とのこと。監督は『ウォンテッド』のティムール・ベクマンベトフだが、空気中のチリやホコリを丁寧に描写しながら画面に奥行きを出す3D映像のセンスは抜群。この空気中の微粒子描写に「ずいぶん面倒なことをしているなぁ……」と思ったら、これが映画中盤のアクションシーンの伏線になっていてびっくり。吸血鬼についての既存の弱点設定(豆や穀類などの細かい粒が苦手)が、こういうところに生かされてくるのは面白い。

 この映画には、幾つかの奇想天外なアクションシーンがある。しかしCGで描写されるアクションに、もうそれほどの新鮮味を感じることはない。この映画の面白さはCGを使った3Dアクションよりも、エイブラハム・リンカーンというキャラクターそのものにあると思う。

(原題:Abraham Lincoln: Vampire Hunter)

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11月1日公開予定 TOHOシネマズ日劇ほか
配給:20世紀フォックス 問い合わせ:P2、NO FUTURE
2012年|1時間45分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|ドルビーSR、SRD
関連ホームページ:http://www.foxmovies.jp/lincoln3D/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:Abraham Lincoln: Vampire Hunter
原作:ヴァンパイアハンター・リンカーン
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