ウォリスとエドワード

英国王冠をかけた恋

2012/09/26 シネマート六本木(スクリーン3)
エドワード8世の王冠をかけた恋をシンプソン夫人視点で映画化。
細かなところにお金をかけた贅沢な作品。by K. Hattori

We  アカデミー賞を受賞した『英国王のスピーチ』(2010)でも、歴史的な大事件として描かれていたエドワード8世の結婚問題。父王ジョージ5世の崩御で王位を継いだエドワード8世は、離婚歴があり、当時は人妻でもあったアメリカ人女性ウォリス・シンプソン夫人と結婚するため、王位を退いてしまったのだ。この事件は「王冠をかけた恋」として世界中を驚かせたが、そこではひとりの女性のために王位を投げ捨てたジョージ8世(退位してウィンザー公)にスポットが当たり、ウォリスは大英帝国の君主に王位を捨てさせた悪女とされることが多かった。『英国王のスピーチ』などは、まさにそうしたウォリス像をなぞっている。しかしこの映画は「王冠をかけた恋」を、ウォリスの視点から描いている点がユニーク。ウォリスの生き方を単なるシンデレラ物語とするのではなく、女性が結婚によって何を失うのか?という視点で描いているのもユニークだ。

 物語は1998年のニューヨークで暮らす若いヒロイン、ウォーリーの視点で語られていく。分析医の夫と結婚して何不自由のない生活をしているウォーリーだが、夫婦関係はすっかり冷え切っている。周囲は彼女の結婚をうらやむが、彼女にとって結婚は自分の人生を閉じ込める牢獄のようなものだ。ちょうどその頃、ウィンザー公夫妻(エドワード8世とウォリス)の遺品オークションがニューヨークで開催される。ウォーリーは遺品が並ぶプレビュー会場を連日のように訪れ、夫妻の遺品を眺めながらウォリス・シンプソンという女性の生き方に思いを馳せるのだった……。

 基本はウォリス・シンプソンの伝記物語なのだが、そこに現代のニューヨークで不幸な結婚に苦しめられているヒロインを配しているのがこの映画の工夫だ。両者に共通するのは、同じ名前と、愛情の冷めた不幸な結婚に縛られて苦しんでいること。この映画は「ヒロインは王子様と結婚して末永く幸せに暮らしました」というシンデレラ物語に、正面から断固たる「NO」を突きつけている。ニューヨークで暮らすウォーリーは、一流の医師である夫と結婚して幸福になっただろうか? エドワード8世と結婚したウォリスは、その後幸せな後半生を送れただろうか?

 世界を驚かせた「王冠をかけた恋」は、女の子が夢見るドラマチックなラブストーリーではなかった。ウォリスは英国王との結婚で自分が不幸になるとわかっていながら、みすみすその不幸の中に飛び込んでいく。それはエドワード8世も同じだろう。彼はこの結婚によって英国から追放されてしまう。しかしそれでも、ふたりはその結婚を避けられなかった。このあたりが不思議と言えば不思議であり、不条理と言えば不条理。しかし恋愛というのは不思議なものであり、不条理なものだ。映画はふたりが結婚という不幸にはまり込んで抜け出せなくなって行く様子を、かなりリアルに描いているように思う。

(原題:W.E.)

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11月3日公開予定 新宿バルト9、TOHOシネマズシャンテ
配給:クロックワークス
2011年|1時間59分|イギリス|カラー・モノクロ|シネマスコープ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.we-movie.net
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:W.E.
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