鍵泥棒のメソッド

2012/08/28 シネマート六本木(スクリーン3)
記憶喪失の殺し屋と売れない役者の人生が入れ替わるコメディ映画。
ヒロインを演じた広末涼子がよかった。by K. Hattori

Kagidorobo  裏社会からのヤバイ仕事を請け負うプロの殺し屋コンドウは、一仕事終えた垢を落とすようにたまたま銭湯に立ち寄った。同じ銭湯に来ていたのが、芽が出ないまま30代半ばになった貧乏役者の桜井。ところがコンドウは銭湯で転倒して気を失い、その隙に無一文の桜井がコンドウの荷物を盗んでしまう。コンドウの高級車を乗り回し、分厚い財布からこれまでの借金を返して歩く桜井。一方コンドウは転倒のショックで記憶を失ってしまい、残された荷物から自分は売れない役者の桜井だと思い込んでしまう。ちゃっかりコンドウに成りすました桜井だったが、やがてヤクザから厄介な殺しの依頼を受けてしまうのだった……。

 記憶喪失がどういうものかは誰でも知っている。だが実際に記憶喪失になったり、家族や知人が記憶喪失になったという人は滅多にいないはずだ。多くの人が持つ記憶喪失に関する知識やイメージは、映画やテレビドラマや小説などから得たものに限定されている。それでいて記憶喪失を誰もが知っているのは、メロドラマからコメディまで含め、それが映画史のごく初期から繰り返し取り上げられたモチーフだからだ。しかしあまりにも繰り返し取り上げられてきたために、記憶喪失はもはやすっかり手垢の付いた作劇上のトリックに成り下がっている。今どき記憶喪失というアイデアだけで、物語を作ることはできない。記憶喪失プラスアルファが必要なのだが、この映画はそのプラスアルファの部分で作品をユニークなものにすることに成功している。

 この映画で一番感心したのは、香川照之が演じる記憶喪失になるコンドウでもなければ、彼の生活をちゃっかり乗っ取ろうとしてトラブルに巻き込まれていく売れない役者の堺雅人でもない。この映画をきわめてユニークなものにしているのは、ある日突然「わたし結婚することになりました」と宣言して婚活ミッションを始める、広末涼子が演じる雑誌編集長なのだ。この映画では主人公3人にそれぞれ魅力的な登場シーンを用意しているが、その中でも一番突拍子もない登場をするのが広末涼子だと思う。この登場シーンを見るだけで、彼女がどのくらい仕事ができるか、どのくらい他のスタッフたちから信頼され慕われているか、そしてどのくらい浮き世離れして規格外な人間なのかがすぐにわかる。殺し屋も売れない役者もキャラクターとしてはユニークだ。特に殺し屋のキャラクターは、物語が進行するにつれて隠されていた個性が次々に現れて笑ってしまう。しかしそれにも増して、広末涼子が演じるヒロインはユニークなのだ。

 香川照之や堺雅人には申し訳ないが、殺し屋と役者のキャラクターは、他の俳優が演じても似たような印象の似た人物になったと思う。しかし広末涼子の演じた役は、彼女が演じたからこそこうなった!というもの。これは広末涼子のスゴサを感じさせる映画でした。

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9月15日公開予定 シネクイントほか全国ロードショー
配給:クロックワークス パブリシティ:グアパ・グアポ、ティー・ベーシック
2012年|2時間8分|日本|カラー|アメリカンビスタ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://kagidoro.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
主題歌CD:点描のしくみ
ノベライズ:鍵泥棒のメソッド
関連CD:幸せを呼ぶメソッド~ベスト・ヒーリング・コンピ~
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