のぼうの城

2012/08/09 アスミック・エース試写室
大軍の前にすぐ降伏すると思われた小さな城の物語。
和田竜の同名時代小説を映画化。by K. Hattori

Nobou  和田竜の同名時代小説が原作となっているが、実際には著者がその前に書いた「忍ぶの城」という映画用シナリオを映画化したものだ。「忍ぶの城」は2003年の第29回城戸賞に入選したシナリオで、今回監督を務めた犬童一心に最初に監督を打診されたのはその翌年のことだったという。だが戦国時代の城攻めをモチーフにした映画は、あまりにも大がかりでお金がかかりすぎる素材であり、なかなか企画にゴーサインが出なかった。ところがその後、和田竜本人がシナリオを「のぼうの城」というタイトルで小説化したところ、これがベストセラーとなり、直木賞候補にまでなって注目された。おそらくこれが今回の映画化実現への後押しとなったのだろう。映画のタイトルは『忍ぶの城』から小説と同じ『のぼうの城』に改題され、犬童一心と樋口真嗣の共同監督作品として完成した。主演は野村萬斎。上映時間2時間半の大作だ。

 1590年。豊臣秀吉が小田原の北条氏を攻めることが決まると、石田三成は小田原の支城である忍城攻略の役目を担うことになった。三成に与えられた兵は2万。これに対して、忍城の兵は1千人足らず。しかもその半数は小田原に向かっているので、忍城を守る兵はたかだか500人ほどしかいなかった。2万の大軍が城を包囲すれば、忍城は戦わずして開城する。仮に戦いになったとしても、勝負は一瞬にして決する。誰もがそう思っていた。だが何をどう血迷ったのか、城の留守を預かる成田長親は大軍勢相手の籠城戦を決める。いつもぼんやりした長親は、家臣や領民たちから「のぼう様」と呼ばれるとぼけた人物。名前の通りの「でくのぼう」だと思われていた長親だったが、彼はこの籠城戦で豊臣方の大軍をさんざん手こずらせることになるのだった……。

 当初は2011年秋に公開される予定だった映画だが、劇中の水攻めシーンが東日本大震災の津波被害を連想させるとのことで公開延期になった作品。実際の忍城水攻めでは水を引いた利根川の水量が期待したほどではなく、思ったほどの効果を上げられなかったとも言われている。おそらく徐々に水かさが増して、近隣が水没していったのだろう。だが映画では堰を切った途端に、高さ数メートルもあるどす黒い巨大な水の固まりが田畑や家を飲み込み粉砕してしまう。これはどう考えても物理的にあり得ないと思うのだが、そこは映画的なウソというものなのだろう。しかしこれは堤防を作って水を引いたというより、やはり巨大津波の襲来にしか見えない。実際の津波の映像をテレビで何度も繰り返し見せられている身からすると、それらと比べてしまうのは仕方ないだろう。

 主人公の成田長親はじめ主要な人物たちの性格が、マンガ的に誇張されているのがひどく鼻につく。誇張された人物が映画的リアリティの上にきちんと着地していれば気にならないのだが、この映画ではほとんどの人物たちがそれに失敗していると思う。

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11月2日公開予定 TOHOシネマズ スカラ座ほか全国ロードショー
配給:東宝、アスミック・エース
2011年|2時間25分|日本|カラー|2.35:1|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://nobou-movie.jp
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
原作:のぼうの城 オリジナル脚本完全版
原作:のぼうの城
原作(文庫):のぼうの城
原作(コミック版):のぼうの城
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