コンフィデンスマン

ある詐欺師の男

2012/08/01 ショウゲート試写室
サミュエル・L・ジャクソン主演のクライム・サスペンス映画。
詐欺師の映画としては大いに物足りない。by K. Hattori

Confidence  原題は『The Samaritan』だが、邦題は『コンフィデンスマン』になり、さらにご丁寧に『ある詐欺師の男』という副題まで付いている。「コンフィデンスマン」は詐欺師のことで、一般的には略称の「コンマン」で知られていると思う。ターゲットとなるカモの懐に飛び込み、相手をすっかり信用(コンフィデンス)させてから大金を騙し取るのがコンマンの手口。大がかりな信用詐欺をコンゲームと呼ぶ。原題の「サマリア人」というのは、聖書に出てくる「善きサマリア人」のこと。相手の危機を助ける親切な人のことで、劇中では相手を信用させてから騙す詐欺を意味する。

 主人公フォリーは殺人罪で25年も服役していた初老の男だ。刑務所から出ても、彼を迎える家族はいない。昔の仲間もみんな、死んだか、死にかけているか、引退しているかだ。服役中に覚悟していたことだが、25年の間に何もかも失ってしまった。フォリーは堅気になって暮らそうと決心するが、そんな彼の前にイーサンという若い男が訪れる。彼は25年前に自分が殺した相棒の息子だった。イーサンはフォリーに対して、自分と組んで新しい仕事をしようと持ちかける。だがフォリーにその気はまったくない。だがイーサンはあの手この手でフォリーに罠を仕掛け、彼が仕事を断れない状況に追い込んでいくのだった……。

 詐欺師の登場する映画はたくさんあるが、この映画は詐欺の話でありながら、鮮やかな詐欺の手口で観客を驚かせることは二の次になっている。ここで描かれているのは、刑務所を出て堅気になろうとしている元犯罪者が、愛する人を守るため再び犯罪の世界に舞い戻るという物語だ。このパターンの映画は、詐欺師の映画以上に数が多いだろう。『コンフィデンスマン』はその両者の要素を混ぜ合わせているわけだが、どちらかと言うと詐欺師の話は薄い。これなら別に主人公は詐欺師でなく、別の種類の犯罪者でもよかったのではないだろうか。

 この映画で残念なのは、主人公のフォリーの凄腕詐欺師としての実績が、映画の中にまったく描かれていないことだ。ビッグコン(大口の詐欺)を仕掛ける人間は、釣り銭をごまかしたりカモの財布から札びらを抜き取るようなショートコン(小口の詐欺)にも長けているだろう。劇中ではフォリーが常にイーサンに騙され追い詰められるばかりで、老練な大物詐欺師としての見せ場がまるでない。劇中何度かフォリーがイーサンをやり込めたり、きりきり舞いさせる場面が欲しい。じつはそれがイーサンの手の中で踊っているだけだとしても、映画を観ている間は「さすがベテランだ!」「これならイーサンがフォリーの手を借りたがるはずだ!」と思わせる場面が欲しいのだ。映画はスター俳優の貫禄で補いそれなりに面白く見せてくれるのだが、主人公が劇中でただの1度も詐欺を成功させないというのは、詐欺師映画としての致命的な欠点だろう。

(原題:The Samaritan)

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10月6日公開予定 銀座シネパトス
配給:ショウゲート 宣伝:スキップ
2011年|1時間34分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|SRD、SR
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