依頼人

2012/06/08 シネマート六本木(スクリーン3)
殺人容疑で逮捕された男を巡る検察と弁護士の攻防。
話は弱いがキャラクターに魅力あり。by K. Hattori

Irainin  映画撮影所で現像の仕事をしているハンは、その夜、結婚記念日を祝う花束を持って自宅マンションに帰宅した。だが建物の周囲にあるのはおびただしいパトカーの回転灯と、大勢の警官、そして野次馬たち。部屋に入ったハンの目に飛び込んできたのは、部屋を調べる刑事と血まみれのベッドだった。妻の姿はない。何が起きたか理解できず、一言も言葉を発しないまま、ハンはそのまま妻殺しの容疑で逮捕された……。

 映画は妻殺しの容疑をかけられたハンを巡って、向かうところ敵なしの敏腕弁護士カンと、彼と司法研修生時代の同期だった凄腕の検事アンが対決するという法廷ミステリー。謎解きの手法にいろいろと穴があるし、ご都合主義の展開も多いように思う。これについてあれこれ書くとこれから映画を観る人の興をそぐと思うが、純粋な謎解きとしては、この映画はちょっと弱い。最後のどんでん返しも別の映画で観たことがあるようなもので、僕はそこから新鮮な驚きや面白味を感じることができなかった。

 容疑者のハンが自宅で逮捕される導入部は面白いが、その後の展開がもたもたするのも気になる。映画を観ている印象としては、検察側の事件の見立てはユルユルだし、弁護側の反論点もグズグズだ。裁判劇としては互いの立証のポイントが見えにくく、相互の攻撃と防御も噛み合っていない。ボクシングで言えば最初からクリンチ合戦みたいなもので、観ていてスッキリしないのだ。

 しかしこの映画は、そうした弱点があるにもかかわらず面白い。その面白さは、弁護士のカンと検事アンのライバル関係、それぞれのキャラクターによるところが大きい。このふたりの主人公の周囲にいる人たちも個性的で、それぞれ映画には出てこない面白いエピソードが山ほどありそうな感じ名のだ。映画の中で断片的に描かれている事柄だけでも、膨らませていけばまた別の映画になるだろう。例えばカン弁護士が手掛けた芸能人の事件はどうか。彼が検事をやめて弁護士になるきっかけを作った事件はどんなものだったのか。カン弁護士の事務所に出入りするブローカーも癖がありそうだし、他のスタッフたちからも話を広げられるだろう。アン検事の正義感は別の方面でもっと描けそうだし、確執ありげな父親との関係についても知りたい気がする。そしてこの映画の中で排除されているのが、カン弁護士とアン検事の私生活。この映画では容疑者ハンの私生活が大きく扱われるためか、弁護士と検事の私生活についてはごく簡単にしか触れられない。特にアン検事に至っては、私生活がまったく謎のベールに包まれている。(父親は登場するけどね。)製作側がどう考えているのかはわからないが、この弁護士と検事の組み合わせで、少なくともあと1本や2本は映画を作れるのではないだろうか。昨年の韓国映画で興行ベスト10に入ったらしいので、ひょっとすると続編が期待できるのかもしれない……。

(英題:The Client)

Tweet
7月21日公開予定 シネマート新宿、シネマート心斎橋
配給:ファインフィルムズ
2011年|2時間3分|韓国|カラー|16:9 シネマスコープ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://client-japan.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:依頼人
関連DVD:ソン・ヨンソン監督
関連DVD:ハ・ジョンウ
関連DVD:パク・ヒスン
関連DVD:チャン・ヒョク
ホームページ
ホームページへ