The Lady

ひき裂かれた愛

2012/05/24 角川映画試写室
ビルマの民主化運動指導者アウンサンスーチーの伝記映画。
主演のミシェル・ヨーが大熱演。by K. Hattori

Thelady  ミャンマーの民主化運動指導者で、1991年にはノーベル平和賞を受賞したアウンサンスーチーの伝記映画。映画は1947年に彼女の父アウンサン将軍が暗殺されるショッキングなシーンから幕を開け、1998年のイギリスに飛ぶ。大学教授のマイケル・アリスが病院でガンを宣告され、ミャンマーにいる妻に連絡すべきか否かで思い悩むというエピソード。そこから物語はさらに時間を10年さかのぼって、マイケルの妻アウンサンスーチーが母親の看病のためミャンマーに帰国する場面になる。

 ここからはほぼ時系列に物語が進行していくのだが、これは英国人の夫マイケル・アリスや子供たちの目から見た、妻であり母であるアウンサンスーチーの物語だ。邦題にある『ひき裂かれた愛』は、祖国への愛と家族への愛の間で苦悩するアウンサンスーチーの立場を表現している。ミャンマーの軍事政権にとって目の上のこぶとなっている彼女は、夫の看病のためミャンマーを出国したが最後、二度と再入国が許されなくなってしまうだろう。彼女を国外に追い出したい軍政府は、マイケルへのビザ発給を拒み続ける。映画の最初に提示されたこの強力なカセが、映画の最後まで「ふたりはどうなるのか?」というサスペンスを生み出すことになる。

 主人公アウンサンスーチーを演じるのは、香港映画のアクションヒロインからハリウッドに渡ったミシェル・ヨー。夫のマイケル・アリスを演じているのはデヴィッド・シューリス。シューリスは末期がんで急激に衰弱して行くマイケルを熱演しつつ、特殊メイクを駆使してマイケルの双子の兄弟アンソニーも演じている。ミシェル・ヨーも手に入る限りアウンサンスーチーの映像を集め、ダイエットして体も引き締めた上で、ニュースなどでお馴染みの彼女のしゃべり方、仕草や表情などを身に着けたという。映画を観ていると、時折ミシェル・ヨー扮するアウンサンスーチーが、本物のアウンサンスーチーに見える時がある。これはミシェル・ヨーにとって、生涯の代表作になることは間違いないだろう。まだアメリカでは公開されていない映画だが、主演ふたりはアカデミー賞の候補になってもおかしくない好演だった。

 映画は2007年に僧侶たちの大規模デモ(この混乱の中で日本人ジャーナリスト長井健司が射殺されている)で幕となるが、ミャンマーではその後新憲法が制定されて総選挙も行われ、本格的な民主化に向けて国家の舵を切った。2003年から軟禁状態になっていたアウンサンスーチーは2010年にようやく軟禁を解除され、翌年には政治活動を再開。今年4月の連邦議会補欠選挙に立候補して当選し、5月には正式にミャンマーの国会議員になった。

 なお本作の主演女優ミシェル・ヨーは、昨年6月にミャンマーを訪れた際、ブラックリストに載っていることを理由に入国を拒否されている。ミャンマーの民主化は、まだはじまったばかりなのだ。

(原題:The Lady)

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7月21日公開予定 角川シネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷
配給:角川映画 パブリシティ:アルシネテラン
2011年|2時間13分|フランス|カラー|スコープサイズ|ドルビーSRD-EX
関連ホームページ:http://www.theladymovie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:The Lady
関連書籍:アウンサンスーチー
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