プレイ

―獲物―

2012/04/25 シネマート六本木試写室(スクリーン3)
脱獄犯と連続殺人鬼と警察の三つ巴サスペンス・アクション。
クラシカルなたたずまいのある犯罪映画。by K. Hattori

Laproie   凶悪犯専門の刑務所に服役中の銀行強盗のフランクは、出所を目前に控えていた。出所した彼には愛する家族と、秘密の場所に隠した大金が待っているはずだ。だが同房のモレルという男を他の囚人たちの暴行から助けたことで、フランクは逆恨みのリンチを受けることになる。弁護士の尽力で出所が決まったモレル恩人であるフランクを病室に訪ね、彼のためにぜひ一肌脱ぎたいと申し出る。だがモレル出所後に訪ねてきた憲兵の話を聞いて、フランクの顔は青くなった。モレルは連続婦女暴行事件の犯人に間違いないというのだ。病室を出たフランクに看守と囚人たちの新たなリンチが待ち構えていたが、必死に抵抗反撃して危機を脱した彼は、そのまま警備の合間を縫って刑務所から逃走する。自らの命と愛する家族を守るために。だが家にたどり着いた時、そこはもぬけの空だった……。

 1本の映画の中にさまざまな映画の要素が詰め込まれていて、しかもそれがうまく構成されている作品だ。映画序盤は刑務所ものだ。タフな主人公が刑務所内でさまざまな嫌がらせを受けるが、それに屈することなく逆転のチャンスをうかがう。主人公の命を狙う囚人もいれば、彼らに買収されて協力する看守もいる。刑務所慰問もあれば、作業場でのリンチもある。刑務所もののクライマックスは、地獄のような刑務所からの脱走だ。主人公が脱走すれば、それを追いかける警察との駆け引きが始まる。何度か窮地に追い込まれつつ、あわや間一髪のタイミングで逃げ出し命がけの逃走を続ける主人公。このあたりの一進一退は『逃亡者』に通じる世界。しかし主人公はただ逃げるだけでなく、自分の家族に危害を与える殺人鬼を追跡している身でもある。主人公がまったく自分と無関係な犯罪に巻き込まれていく様子は、ヒッチコック型の巻き込まれ型スリラー。家族を人質に取られているという設定は、ヒッチコックの映画にも何度か登場しているはずだ。

 というわけでこの映画はいろんな映画のいいとこ取りで、個々の要素を取り上げればハリウッド映画だ。しかしフランス映画らしいヒネリもある。主人公が犯罪と無縁の善良な男ではなく、凶悪な銀行強盗であること。罪を悔いて更生するつもりはなく、出所後は隠した金で安楽に暮らすつもりだということ。主人公は相当な悪党なのだ。だから映画はそう簡単には、めでたしめでたしにはならない。主人公は犯した罪に見合う報いを受けねばならない。

 映画前半の刑務所内の描写は「がまん劇」としてよくできている。理不尽な暴力にひたすら耐え忍んできた主人公が、ついに一線を越えて反撃するからこそ、観客は主人公を応援してしまうのだ。しかしそれで主人公の罪と報いのバランスが取れるわけではない、主人公はその後も徹底的に追い詰められ、傷つけられていく。しかもこの映画は、そこにまったく容赦ないのだ。久しぶりに骨のある映画を観た気がする。

(原題:La proie)

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6月30日公開予定 ヒューマントラストシネマ渋谷、ヒューマントラストシネマ有楽町
配給:エプコット 宣伝:アルシネテラン
2010年|1時間44分|フランス|カラー|シネマスコープ|ドルビーDTS
関連ホームページ:http://www.alcine-terran.com/prey/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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