SR サイタマノラッパー3

ロードサイドの逃亡者

2012/03/21 サンプルDVD
1作目が埼玉、2作目が群馬、そして今度は栃木が舞台。
『SR』北関東三部作がついに完結。by K. Hattori

Sr3  2009年に公開された『SR サイタマノラッパー』、翌年公開の『SR サイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』に続くシリーズ最新作。1作目の舞台は埼玉、2作目は群馬、そして3作目の本作は栃木が舞台。主人公は1作目に登場したマイティだが、僕はその1作目を観ていないのでどういう事情があるのかはわからない。しかし地方都市に住む若者が「東京でビッグになるぜ!」と上京して、そこからひたすら転落して行く話は単純で、この3作目をいきなり観たとしても話がチンプンカンプンということはない。映画後半ではSHO-GUNGのメンバーだったイックとトムが登場してマイティの物語と交差して行くのだが、このへんは1作目を観ていないと作り手の思いはわからないかもしれない。僕はここにもう少しノレなかった。(いずれどこかのタイミングで、1作目は観なきゃなぁ……と思った次第。)

 東京でプロになることを決めて、SHO-GUNSを抜けたマイティ。だが2年の間まったく芽が出ないまま、人気グループ極楽鳥の見習として奴隷のようにこき使われる鬱屈した日々が続く。実力なら負けない。ないのはチャンスだけ。ならばそのチャンスを、自分でもぎ取るしかない。大きな決意を胸に秘めて参加したMCバトル。極楽鳥のメンバーからは、決勝に進出するようなら正式メンバーとしてステージに上げてやるとの許可も得た。だが決勝進出を報告するマイティに、極楽鳥からは「わざと負けろ」との非情な命令が下されるのだった……。

 何者でもない若者が、何者かになろうとしてもがくのが青春映画だ。マイティは音楽の世界で自分が何者になろうともがくが、それが挫折してから後は、逆に「何者でもない人間」であり続けるためにもがき続ける。何しろ彼は指名手配のお尋ね者なのだ。しかしいくら何者でもない存在になろうとしても、マイティはそれに徹し続けることはできない。彼の心の奥底では、やはり何者かになりたいという思いがくすぶり続けている。流れ流れて流され続け、他人の意のままに操られても、絶対譲れないものがある。マイティは再び逃げる。自分が自分であるためには、逃げるしかないのだ。恋人と手に手を取っての、ぶざまな逃避行が再び始まる。あまりにもみじめで、あまりにも情けない逃避行だが、これほど切実で切羽詰まった逃走はないだろう。

 物語はマイティの転落と逃走と並行して、SHO-GUNGのイックとトムの物語が描かれていく構成。しかしこれがあまりうまく噛み合っておらず、マイティの物語が動き始めるとイックとトムの話がそれをさえぎり、逆にイックとトムの話が盛り上がってくるとマイティがそれに水を差しているように思える。本来は両者の物語が二頭立て馬車のように映画全体を引っ張って行くはずなのだが、それがうまく機能していない。馬の走っている方向が違ったということだろうか。

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4月14日公開予定 渋谷シネクイント
4月28日公開予定 シネマスコーレ
5月5日公開予定 第七藝術劇場
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
2012年|1時間50分|日本|カラー
関連ホームページ:http://sr-movie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
シリーズ1作目:SR サイタマノラッパー
シリーズ2作目:SRサイタマノラッパー2女子ラッパー☆傷だらけのライム
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