ベイビーズ

〜いのちのちから〜

2012/03/13 ショウゲート試写室
産まれた国も民族も異なる4カ国4人の赤ちゃんの成長記録。
観ているとついニコニコしてしまう。by K. Hattori

Bebes  アフリカ・ナミビアの少数民族ヒンバ族の集落、日本の東京都心部、モンゴルの草原地帯バヤンチャンドマニ、アメリカ・カリフォルニア州のオークランド。国も民族も違う4つの場所に産まれた4人の赤ん坊が、この世に産まれてから一人で力強く歩き始めるまでのおよそ1年間を取材したドキュメンタリー映画。ナレーションや解説はなく、地域や名前を示す最低限の字幕以外に説明もないまま、映画のすべてを観る人に委ねている作品だ。

 4人の赤ちゃんの物語は別々に描かれるのではなく、同時進行で並走して行く。実際にこの4人が同時に産まれたわけではないはずだが、映画の中ではあたかも4人の赤ん坊たちが同時に産まれ、同時に成長しているように見える構成だ。こうすることで赤ちゃんたちそれぞれの個性が際立ってくるし、地域ごとの子育ての違い、赤ん坊と周囲の関わりの差異などが明確になっている。大家族の中で育てられるナミビアの赤ちゃん。見渡す限りの大平原の中で、家畜たちと共に暮らすモンゴルの赤ちゃん。核家族の中で両親に育てられる、日本やアメリカの赤ちゃん。監督自身は日本やアメリカの子育てに親近感を持ったそうだが、それはおそらく映画を観ているほとんどの観客がそうだと思う。モンゴルの子育てはちょっとユニークだし、ナミビアに至ってはほとんどカルチャーショックすら受けてしまう。

 この映画にはいろいろな受け止め方があると思うが、僕はこれから初めて赤ちゃんを産む夫婦が観るといいと思う。これを観ると、赤ちゃんの育て方にはこれといって正解がないことがわかる。母乳で育てるか、ミルクで育てるか。おむつは布がいいのか、紙おむつの方が楽なのか。細かくマニュアル化された育児情報に振り回されてヘトヘトになる前に、この映画を1度観ておくと、育児の常識とされるものがいかにそれぞれの文化的な枠にはめ込まれているかがわかるだろう。ナミビアの赤ちゃんはおむつを当ててないし、モンゴルのおむつは厚手の布を下半身にぐるりと巻き付けただけだ。アメリカの母親は搾乳機で絞った母乳を哺乳瓶に移し替えて子供に与えているし、モンゴルの赤ちゃんは家の中でネコやニワトリと一緒に暮らしている。ナミビアやモンゴルでは、清潔や衛生に対する概念がまったく異なる事にも驚く。

 そうした「違い」が目に付く映画であると同時に、この映画は同じ月齢の赤ん坊たちを比較することで赤ちゃんたちの成長に「共通」する事柄も描いていく。赤ちゃんたちは同じ時期に離乳食を食べ、よちよち歩きを始め、片言の言葉を喋り、やがてひとりで立ち上がるようになる。小さな弱々しい足で、大地をぐいと踏みしめて立ち上がる赤ちゃんたちの姿は感動的。そして赤ちゃんたちの成長と共通して伝わってくるのは、(月並みな表現だが)親たちの我が子に対する愛情だ。赤ん坊たちの豊かな表情には思わずニッコリしてしまうが、子供と接している時の親たちもいい顔をしているのだ。

(原題:Bebes)

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5月5日公開予定 新宿ピカデリー
配給:エスパース・サロウ
2010年|1時間29分|フランス|カラー|ビスタ|ドルビーデジタル、DTS
関連ホームページ:http://babies-movie.net/
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