孤島の王

2012/03/06 シネマート六本木(スクリーン3)
ノルウェーの少年矯正施設で起きた反乱事件を映画化。
少年たちの面構えがいい。by K. Hattori

Kotonoou  ノルウェー南部、オスロフィヨルドの中に浮かぶバストイ島。四方を海に囲まれてはいるものの、絶海の孤島というわけではなく、対岸からは3キロほどの距離。この島は現在バストイ刑務所として運営されいるが、1900年から1970年までは、同じ場所に非行少年のための矯正施設が置かれていた。本作はそのバストイ矯正施設で起きた、実際の事件もとにしているという。

 1915年。非行少年たちが集まるバストイ島の矯正施設に、ふたりの少年エーリングとイーヴァルが送り込まれてくる。ふたりはただちにすべての私物を取り上げられ、個人としての名前を奪われ、職員たちからそれぞれC19、C5という番号で呼ばれるようになる。この新入りたちの面倒を見るよう申し渡されたのは、数週間後に退院を控えているC1ことオーラヴだった。何かと反抗的な態度を見せるエーリングに対して、オーラヴは自分の退院まではおとなしくしていてくれるよう頼む。だがエーリングはそんなことお構いなし。むしろ所長や職員たちにすっかり飼い慣らされてしまっているオーラヴに、軽蔑の眼差しさえ向ける。当初は反発し合っていたふたりだったが、厳しい環境で同じ釜の飯を食って生活する中で、お互いへの信頼と友情が芽生えていくのだった……。

 少年たちが主人公だが、物語の中には刑務所ものや収容所ものの定番設定がぎっしり詰め込まれている。個人としての尊厳を奪われる収容者たち。反目し合う収容者同士の間に生まれる友情。看守による精神的肉体的な虐待。保身のため院内の不正に目をつぶる院長。脱走計画の実行。脱走したものの連れ戻される男。過酷な懲罰房。収容者たちの反乱。何度も脱走を企てるエーリングの姿は『大脱走』や『パピヨン』のスティーブ・マックイーンを連想させるし、体制に順応しない新入り収容者が、他の収容者たちの意識を変革させていくという筋立ては『カッコーの巣の上で』や『ショーシャンクの空に』にも似ている。小さな島がまるごと収容施設になっているのは『アルカトラズからの脱出』であり『シャッターアイランド』だ。少年院での看守による性的虐待は『スリーパーズ』にも描かれていた。あるいはこれを『マグダレンの祈り』の少年版と観ることもできるだろう。要するにこの映画は、この手の映画の集大成の感があるのだ。

 しかし本作を独特のものにしているのは、思春期の少年たちの間に芽生える友情であり、抑圧された環境下にあっても決して抑えることのできないたくましい生命力のきらめきだ。それを象徴するのが、エーリングの語る「物語」だろう。銛を撃たれても弱ることなく人間たちを引きずり回していく巨大なクジラと、それに翻弄される捕鯨船の物語。映画の序盤から矯正施設は船に例えられているが、その船も巨大なクジラを制御することはできない。クジラは捕鯨船をひっくり返して、船員たちを飲み込んでいく。

(原題:Kongen av Bastoy)

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4月28日公開予定 ヒューマントラストシネマ有楽町
配給:アルシネテラン
2010年|1時間57分|ノルウェー、フランス、スウェーデンポーランド|カラー|シネスコ|ドルビー
関連ホームページ:http://www.alcine-terran.com/kotou/
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