第九軍団のワシ

2012/03/02 シネマート六本木(スクリーン3)
ローズマリ・サトクリフの同名小説を映画化した歴史ドラマ。
丁寧な時代考証には好感を持つ。by K. Hattori

Theeagle  ローズマリ・サトクリフの児童向け歴史小説「第九軍団のワシ」を、ケヴィン・マクドナルド監督が映画化した歴史アドベンチャー映画。物語は西暦120年頃にブリタニア属州(現在のイギリス)で起きた、実在の事件を下敷きにしている。この当時ブリタニアに駐留していた第九軍団5,000人が、エブラカム(現在のヨーク)からスコットランドに進軍したまま忽然と姿を消したのだ。この時、ローマ軍の象徴である金のワシの旗印も失われてしまった。それから20年後、ブリタニアの駐屯地に赴任してきたのは、かつて5,000人の部下や黄金のワシと共に北方の地で姿を消した将軍の息子マーカスだった。彼の願いはこの地で蛮族相手に武勲をあげて、一族の汚名を晴らすこと。だが戦闘で負傷し治療を受けていたマーカスは、北方の蛮族の神殿に失われた黄金のワシがあるという噂を聞きつける。これを取り戻すことこそ自分の勤め。彼は忠実な奴隷エスカと共に、蛮族たちが暮らすスコットランドを目指すのだが……。

 丁寧な時代考証が行われた映画であることが、映画を観ているだけで伝わってくる作品だ。映画の規模としてはそれほど大金をかけているようにも見えないのだが、美術スタッフは随分とがんばって2世紀のローマ人の暮らしを再現しようとしている。人気コミック「テルマエ・ロマエ」と時代的には重なり合っているので、「テルマエ・ロマエ」で古代ローマに興味を持った人には面白いかもしれない。

 しかしこの映画、個々のエピソードは面白いのだが、全体としては食い足りない。アクションシーンとしては序盤の砦での攻防戦に見応えがあるが、それ以降はこれといって大きな見せ場がないままなのだ。終盤には黄金のワシを巡って蛮族とローマ兵が入り乱れるアクションシーンがあるのだが、この時は主人公が疲労とケガと発熱でフラフラになっているためか、それまでのサスペンスやスリルで溜め込んだフラストレーションを吹き飛ばすほどのカタルシスが生まれない。これは脚本の問題もあるのだろうが、それ以上に演出の問題もあるだろう。ストーリーにはあちこちに小さな山場が組み入れられているので、脚本家はそれなりの仕事をしているはず。しかしそうした山場が山場として機能していないのは、やはり演出の問題なのだろう。

 英語作品だが、ブリタニア先住民の言葉は便宜的にゲール語になっている。この時代に実際に先住民が話していたピクト語は既に失われていて、再現不可能だったようだ。まあしかしローマ人が英語を喋っている映画で、そこまでの厳密さを求める必要もないだろう。それより映画を観ていて気になったのは、多民族社会であるブリタニアで、先住民たちはみんな同じ言葉を話していたのだろうか……ということ。時代考証が入念であればあるほど、かえって些細なところが気になってしまうのだ。

(原題:The Eagle)

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3月24日公開予定 渋谷ユーロスペース
配給:太秦
2010年|1時間54分|イギリス、アメリカ|カラー|シネマスコープ|ドルビー
関連ホームページ:http://washi-movie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:The Eagle
原作:第九軍団のワシ
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