SHAME

-シェイム-

2012/02/28 シネマート六本木(GAGA試写室)
気ままな独身暮らしを満喫する男のもとに転がり込んできた妹。
性依存症の男を主人公にした真面目なドラマ。by K. Hattori

Shame  ニューヨークで働く独身のエリートサラリーマン、ブランドンは、仕事場で見せる物静かで優雅な態度とは裏腹に、私生活では重度のセックス依存症になっている。ハンサムな彼は抜群のセックスアピールを武器に、街や酒場を徘徊しては相手をする女姓を物色してところ構わず行きずりの関係を持ち、相手が見つからなければ娼婦相手にセックスをする。職場のパソコンにもアダルト画像や動画が多数ダウンロードされ、仕事を終えて自宅に戻ればまずアダルトサイトにアクセス。クローゼットはポルノ雑誌やアダルトグッズであふれ、暇さえあれば朝から晩までマスターベーションにふける日々だ。彼にとって性依存症は日常の一部になっていて、そこにはもはやエロチックなファンタジーなど存在しない。ブランドンの日常は、それなりに安定して平和なものなのだ。だがそんな彼の日常は、恋人に捨てられた妹シシーが突然部屋に転がり込んできたことで大きくかき乱されることになる。

 主演のマイケル・ファスベンダーは本作のスティーヴ・マックイーン監督のデビュー作『ハンガー』(2008/日本未公開)にも主演していて、既に次回作『Twelve Years a Slave』への出演も決定しているとのこと。本作のブランドンという役柄は一歩間違えると不潔で汚らしいものになってしまいそうだが、生活感が希薄で奇妙な清潔感を感じさせるキャラクターとして描くことに成功していると思う。妹のシシーを演じるのは『17歳の肖像』や『わたしを離さないで』の好演が印象的だったキャリー・マリガン。この兄妹の関係が映画の中心になっていくわけだが、彼らの過去に何か大きなトラウマとなる出来事があったことをほのめかしながら、映画はそれを明確には描かず秘密にしているのがミソだ。この兄妹の間には何かがある。しかしその何かが具体的に何なのかは観客には伏せられており、「ああ、そういうことだったのか!」と観客が膝を打つようなカタルシスは用意されていない。観客は映画の中に散りばめられているさまざまなエピソードや台詞の端々から、その過去を手探りして行くことになる。

 映画にはテーマとなる対象を具体的に描き出すことで表現する手法もあれば、それをあえて描かないことで、対象を周囲から浮き彫りにして行く手法もある。この映画は後者の手法を使って、ブランドンとシシーの関係を描いている。これを読み解いていくことが、この映画を観る上での楽しみ。最終的な「正解」は映画の中で明かされていないわけだが、推理や推論のプロセスを楽しませてくれる作品なのだ。つまりこれは、永遠に結論が出ないミステリー映画。しかし古典的な名作と言われている映画には、この手のミステリーが多いものだ。本作は性依存症というセンセーショナルな題材を扱いつつ、映画の作りとしてはじつに古典的なフォーマットを持っているのだ。

(原題:Shame)

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3月10日公開予定 渋谷シネクイント、シネマスクエアとうきゅう、横浜ブルク13
配給:ギャガ
2011年|1時間41分|イギリス|カラー|シネスコ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://shame.gaga.ne.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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