僕達急行

A列車で行こう

2012/02/07 東映第1試写室
鉄道オタク青年たちを主人公にした鉄道版『釣りバカ日誌』。
森田芳光監督の遺作となった映画。by K. Hattori

Boku9  昨年12月に61歳で急逝した森田芳光監督の遺作は、鉄道マニアの青年コンビを主人公にした、素朴で不器用だけど爽やかな後味の残る青春コメディ映画だ。世の中の鉄道ブームもあって、鉄道にまつわる映画はここ何年かで『RAILWAYS』シリーズなど何本かが作られている。しかしこの『僕達急行』はそうしたブームとはまったく別に、森田監督が10数年前から企画を温めていたのだとか。もっともこの企画が実際に動き始めるにあたっては、世間の鉄道ブームも後押しにはなっていると思う。

 東京の不動産デベロッパーに勤める小町圭は、鉄道で車窓の風景を見ながら自分でセレクトした音楽を聴くのが趣味という鉄道オタク。だがこの趣味を理解してくれる女性はあまりいない。蒲田の町工場コダマ鉄工所の二代目・小玉健太も鉄道が趣味だが、職業柄かモーター性能や内装の工作精度などハードウェアの部分が気になるたちだ。そんなふたりは旅先で知り合い、都内で再会してすっかり意気投合。住んでいたマンションを追い出された小町は、鉄工所の社員寮に転がり込む。そんなマイペース型の小町を見込んで、勤務先の社長は彼を九州支社テコ入れ要因として転勤させる。一方父親が持ち込んだ見合い話で相手に振られてしまった健太は、傷心の傷を癒すため小町のいる九州へ。そこでふたりは鉄道が好きだという中年男に出会って、これまた意気投合するのだった……。

 趣味が取り持つ縁で若いサラリーマンがどんどん人脈を広げ、仕事もとんとん拍子に進んでしまうという都合のいい話。主人公が旅先で出会った中年男に「仕事は?」と聞かれて、「今日はプライベートですから仕事は忘れましょう」と答えるあたりで、僕はこれが『釣りバカ日誌』の鉄道版であることに気づいた。ただし主人公は『釣りバカ日誌』のハマちゃんほどには浮き世離れしていない、常識的なサラリーマンであり、人のいい町工場の二代目だ。仕事はできるが、ガツガツはしていない。熱くなることがないのか、熱くなってもそれが態度には表れない。それは女性に対する態度も同じで、来る者は拒まないが、それが嬉しいんだか迷惑なんだか。付き合っていた女性が去っても追うようなことはなく、去るに任せてしまうようなところがある。(とはいえそれでも、しっかりと傷ついてはいるのだ。)こうした主人公たちのキャラクター造形は、きっと今の20代後半ぐらいの人たちの等身大の姿なのではないだろうか。

 ただし僕はこの映画に出てくる主人公たちの様子に、かなり露骨にホモセクシャルな雰囲気を感じた。彼らは女性と交際し、振られれば傷ついたりもするのだが、女性と深く付き合って一夜を共にするようなことはない。むしろ映画に描かれる小町と健太の関係の方が、ほとんど同棲生活じみている。今回の映画では互いに自分自身の同性愛気質を自覚していなかったふたりだが、この映画に続編が作られたらどうなっていたことか……。

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3月24日公開予定 丸の内TOEIほか
配給:東映 宣伝:グアパ・グアポ
2012年|1時間57分|製作国|カラー
関連ホームページ:http://boku9.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
ノベライズ:僕達急行 A列車で行こう
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