マイウェイ

12,000キロの真実

2011/12/27 東映第1試写室
オダギリジョーとチャン・ドンゴン主演の戦争大作映画。
アイデアは悪くないのに脚本が粗い。by K. Hattori

Myway12000  『シュリ』や『ブラザーフッド』のカン・ジェギュ監督の新作は、日本の植民地として第二次大戦に巻き込まれた朝鮮半島の運命を、日朝双方の青年の絆と反目を通して描き出す大河ドラマ。物語は1928年の京城(現在のソウル)から始まる。憲兵隊司令官の祖父と暮らすため日本から越してきた長谷川辰雄は、使用人の息子キム・ジュンシクと走ることを通じて親しくなる。長距離競技のよきライバルとして切磋琢磨するふたりだったが、憲兵隊を狙ったテロで辰雄の祖父が死んだことから関係は疎遠になる。辰雄は祖父を殺した朝鮮人を憎悪しながら日本を代表するランナーとなり、ジュンシクは人力車夫として家計を支えながらオリンピック出場の夢を追い求めていた。ベルリン五輪の金メダリスト孫基禎のはからいで五輪代表選考レースに出場する機会を得たジュンシクは、デッドヒートの末に辰雄に競り勝つことができた。しかし不当にも彼は失格扱いとなり、不服をとなえた彼に同調して暴れ出した友人たちと共に、戦場の最前線に送り込まれてしまった。だが戦場で彼が出会ったのは、血も涙もない冷酷な軍人に変貌した辰雄だった……。

 実話にもとづく映画と宣伝されている作品だが、実際は歴史の中にあったいくつかの事実が要素として散りばめられている程度だと考えた方がいい。日本人の視点から見ると、歴史的にも映画のリアリティとしても疑問だらけの映画だと思う。歴史的な疑問として、例えばベルリン五輪のマラソン金メダリスト孫基禎は日本人から「そんきてい」と呼ばれるべきだろうし、日本人に対する不満から騒ぎを起こした朝鮮人たちが日本の軍人になることもあり得ない。マラソン選手だった辰雄が入隊後1年たらずで大佐になっているのは不自然だし、降格した前任者への命令書が巻紙で届くとか、処分内容が切腹になっているのは無茶苦茶だ。韓国では日本の朝鮮支配について映画に描かれたような内容が「常識」とされているのかもしれないが、こうした薄っぺらで荒唐無稽な描写によって主人公たちのキャラクターまでが平板なものになり、後半のドラマも厚味のないものになってしまった。

 しかしそうした歴史的な描写のおかしさ以上に、この映画は主人公ふたりのキャラクターが掘り下げ不足なのだ。辰雄は最初から最後まで奇矯な振る舞いが目立つ悪党だし、ジュンシクはそれとバランスを取るため必要以上に善良な人間として描かれてしまう。これに比べると、彼らの周囲にいる人間の方がずっと深みのある人物として描かれる。例えばジュンシクの親友だがソ連の捕虜収容所で人間性を失っていくジョンテは、この映画の中で一番生き生きと映画の中を生きている人物だろう。物語のスケールは大きく、製作にたっぷりお金もかけたであろうに、脚本がスカスカでストーリーが上滑りしている印象だ。もっと面白くなる素材なのになぁ……。

(原題:My Way)

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1月14日公開予定 丸の内TOEIほか全国ロードショー
配給:CJ Entertainment Japan、東映
2012年|2時間25分|韓国|カラー|シネスコサイズ|ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://myway-movie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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