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ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち

2011/12/07 20世紀フォックス試写室
不世出のダンサー兼振付師ピナ・バウシュ作品の3D映像化。
監督はヴィム・ヴェンダース。by K. Hattori

Pina  2009年に突然他界した世界的バレエダンサーで振付師、ピナ・バウシュのドキュメンタリー映画。ヴィム・ヴェンダース監督にとって初の3D映画であり、『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』にも通じる芸術パフォーマンスのドキュメンタリー映画でもある。ヴェンダースとピナ・バウシュは1985年頃から交流をはじめ、2009年の初めからいよいよ撮影準備に入っていたのだが、6月30日にピナが急死したことで映画の企画自体が一時中止される。しかし関係者たちの強い熱意によって、映画撮影は再スタートされることになったという。

 この映画はピナ・バウシュのドキュメンタリーではあるが、彼女自身のことについてはじつはあまり何も語っていない。映画は彼女に捧げられているが、紹介されているのは彼女が残した作品がほとんど。そこに彼女と共に作品作りをしてきたヴッパタール舞踏団のメンバーたちがカメラの前で答えるインタビューが重なっていく。しかし優れた作家は作品を通して自分自身を語るものだ。この映画も彼女の残した作品を通して、彼女自身を語るものになっているように思う。ヴェンダースもそのように考えたからこそ、映画の最後にピナ・バウシュ本人の幻影(過去の映像)がステージの上に映し出されるカーテンコールを演出したに違いないのだ。

 ピナ・バウシュはコンテンポラリー・ダンスに興味のない人でも名前ぐらいは知っているであろう有名なダンサーだし、映画ファンならペドロ・アルモドバルの映画『トーク・トゥ・ハー』の冒頭で代表作「カフェ・ミュラー」を踊る彼女を観たことがあるはずだ。テーブルとイスが雑然と置かれたフロアの上を、目を閉じたダンサーが突き進んで行くと、その横にいる男が彼女の前方にあるイスをどんどん取り除けて行く。『トーク・トゥ・ハー』で演じられたのはそのごく一部に過ぎないが、今回の映画ではそれがより長時間観られる。他に大きく扱われているのは、「春の祭典」「コンタクトホール」「フルムーン」など。これらはステージ上で行われるパフォーマンスの収録、あるいは再現という形を取っているが、他にも屋外や路上で演じられるパフォーマンスが面白い。映画ならではのトリックを使って現実の風景をダンスの背景に持ってきたり、舞台装置の模型の中で本物のダンサーが踊り始めたりする。いろいろと手が込んでいて、サービス精神旺盛なのだ。

 正直言って、観る人を選ぶ映画だとは思う。コンテンポラリー・ダンスに興味のない人は、はなからこんな映画に興味も関心も持たないだろう。ヴィム・ヴェンダースというネームバリューが、現時点で日本の若い映画ファンにどれだけ通用するのかもわからない。しかしこの映画はそんな人たちでも、十分に観る価値のある映画だと思う。3D映像で構成されたダンス・パフォーマンスは、舞台上演とは異質ながら臨場感にあふれるものだ。

(原題:Pina)

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2月25日公開予定 ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿バルト9、横浜ブルック13
配給:GAGA 
2010年|1時間44分|ドイツ、フランス、イギリス|カラー|ヴィスタ|SRD
関連ホームページ:http://pina.gaga.ne.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
サントラCD:Pina
サントラ(ダウンロード):Pina
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