孤独な惑星

2011/11/09 映画美学校試写室
一人暮らしのOLと彼女の部屋のベランダで暮らす男の関係。
風変わりな味わいのラブストーリー。by K. Hattori

Kodokuna_wakusei  東京の古いマンションで一人暮らしをしている真理は、隣の部屋で恋人と同棲中の哲男という男が少し気になっている。ある日、恋人とケンカして夜中に部屋を追い出されたという哲男を一晩だけの約束で部屋に泊めたところ、哲男はそのまま真理の部屋のベランダを借りて居ついてしまう。自分を追い出した恋人を、隣の部屋から監視していたいというのだ。部屋の中に入ってこないという約束で、哲男のベランダ住まいを認めてしまった真理。こうしてひとつ屋根の下、部屋と部屋を区切る壁や、部屋とベランダを区切るガラス戸を隔てて、男女3人の奇妙な関係がスタートするのだった……。

 映画美学校の「フィクション高等科コラボレーション」の中から生まれた作品で、監督は同校で講師を務める筒井武文。出演は竹厚綾、綾野剛、三村恭代。彼ら3人が物語の中心にいる人物を演じ、周辺に水橋研二やミッキー・カーチスが顔を出して場面を引き締める。ヒロインの真理を演じた竹厚綾は出演している他の誰よりも身長が高いのだが、この図抜けて背が高い外見が、そのまま彼女のプライドの高さや孤立感を際立たせることにつながっている。彼女が自信たっぷりなのに比べると、周囲の男たちは自信なさげで卑屈なのだ。彼女が元恋人役の水橋研二と並ぶと、元恋人の背が低いだけでなく、彼自身の人間性までが卑小なものに見えてしまう。またベランダに住む哲男との関係においても、並んで立てば必ず真理の方が背が高い。ベランダの方が室内より床面が一段低くなっているので、この違いが余計に際立つ。サッシの上の小窓から食べ物を差し入れるシーンなどは、真理が食事を下げ渡し、哲男がそれをうやうやしく頂戴するという図になる。彼女の身長自体が、物語のいい演出になっているのだ。

 この物語にリアリティがあるかと言えば、そんなものはまるでないと思う。鍵を持ち忘れて部屋から閉め出されたら、寒い中ドアの前で待っていないでコンビニにでも行けばいいじゃないか……と僕などは思ってしまう。隣の部屋から鍋に入ったシチューを受け取ったら、翌日には洗って返すのが普通ではないのだろうか……とも思ってしまう。だいたい真冬にベランダでテント暮らしをしていて、夜中にトイレに行きたくなったらどうするのか。テントは毎日たたんだり広げたりしているのか。部屋の間取りがわかりにくいし、真冬に部屋のカーテンを引かずに中が丸見えなのも不自然だ。

 しかしそうしたことには目をつぶろう。これは寓話なのだ。それは真理の投げ捨ててた1枚のハガキが、突然炎に包まれて燃え上がる導入部からわかっていることだ。場面とはちぐはぐな音楽や音響が生み出す異化効果も、得体の知れない真理の勤務先の描写も、そうした物語の寓話性を浮かび上がらせる。この物語の中で主人公たちは、自分たちが何かに縛られて生きているという事実に気づくのだ。

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12月17日公開予定 ユーロスペース(レイトショー)
配給:ALVORADA FILMS 宣伝:Thanks Lab.
2011年|1時間34分|日本|カラー|スタンダード
関連ホームページ:http://kodokuna-wakusei.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:孤独な惑星
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