密告・者

2011/09/16 シネマート試写室(スクリーン3)
犯罪組織にスパイを送り込んだ警察官の苦悩と葛藤。
見応えのある犯罪メロドラマだ。by K. Hattori

Mikkokusya  香港警察で組織犯罪の捜査にあたっているドンは、ターゲットとなる組織に警察の息がかかったスパイを送り込むことで、数々の難事件を解決してきた。彼が新しく担当するのは、台湾から戻ってきた凶悪な宝石強盗バーバイの捜査。ドンは刑務所から出所するサイグァイという青年に目をつけ、彼を新しいスパイとしてバーバイのもとに潜り込ませようとする。サイグァイにとって唯一の肉親である妹は、親の残した借金のせいで娼婦として働かされている。彼はこの借金を返して、妹を助け出さねばならないのだ。サイグァイは高額な報酬のために警察のスパイとして働くことを承諾するが、その身柄を警察が保証することはない。スパイは警察に協力しながら、自分の身は自分で守らねばならないのだ。バーバイの運転手として雇われたサイグァイは、組織の情報をドンに渡し始める。しかし用心深いバーバイは、自分の近辺に警察のスパイがいることを察知するのだった……。

 ダンテ・ラム監督のサスペンス・アクション映画。警察に雇われたスパイの青年サイグァイと、彼に指示を出す警察官ドンを主人公に、組織の中で動く個人の葛藤を描いて行く。サイグァイを演じるのは『孫文の義士団』や『新少林寺 SHAOLIN』のニコラス・ツェー。警官のドンを演じるのは『エレクション』や『エグザイル/絆』のニック・チョン。バーバイの愛人ディーを『藍色夏恋』や『言えない秘密』の台湾人女優グイ・ルンメイが演じている。

 映画のテーマになっているのは「過去の負債」だ。ドンはかつて警察のスパイだった男に自分の不注意から瀕死の重症を負わせ、廃人同然にしてしまった経験がある。この出来事はドンの心にも大きな心の傷となり、映画の中ではドンがいかにしてこの過去を乗り越えるのかが物語の鍵になっている。一方サイグァイは、親から引き継いだ莫大な借金のせいで妹を苦しめ、過去に何度も微罪で捕まっていることから正業にも就けず、借金を返済できないままもがいている。バーバイの愛人ディーは彼の子供を妊娠しているが、これが映画の後半で大きなカセになってくる。自らの責任で失った時間を、取り戻そうとあがく男たちと女たち。だが一度失ったものは、二度と手に入れることはできない。

 この映画は一種の潜入捜査官もので、物語の視点を警察のスパイであるサイグァイの側に固定してしまえば、そのまま潜入捜査官ものの変形版で終わってしまっただろう。しかしこの映画は物語の視点を、スパイを送り込むドンの側にしたことこのジャンルから新しい魅力を引き出している。この映画には、善悪や正邪といったモラルの対立はない。警察は犯人逮捕のために潜入させたスパイを使い捨てにするだけでなく、より大きな成果を上げたいがために罪のない一般人を危険にさらすことも厭わない。警察の態度は、宝石店強盗のために手段を選ばない強盗団と何も変わらないのだ。

(原題:綫人 The Stool Pigeon)

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10月29日公開予定 新宿武蔵野館
配給:ブロードメディア・スタジオ 協力:東京フィルメックス
宣伝:フリーマン・オフィス
2010年|1時間55分|香港|カラー|シネマスコープ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://mikkokusha.net/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:密告・者
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