やがて来たる者へ

2011/09/15 松竹試写室
1944年9月に北イタリアで起きたマルザボットの虐殺。
日本ではあまり知られていない史実を映画化。by K. Hattori

Yagatekitaru  第二次大戦末期、1944年のイタリア半島では、南から北上して行く連合軍と、北部と中部を制圧していたドイツ軍との間で激しい戦闘が行われていた。連合軍やパルチザンの活躍によって、6月にローマ、8月にはフィレンツェが解放される。だがドイツ軍は半島北部の山間部に強固な防衛ラインを構築し、ここで戦線は膠着状態になった。この時ドイツ軍を後方から攪乱して苦しめていたのが、地元出身者たちで構成されていたイタリアのパルチザン部隊だ。地元の地形を知り尽くし、地域住民たちの支援を受けながら活動するパルチザンに手を焼いたドイツ軍は、この地域のパルチザン勢力を一掃することを決める。8月12日にはトスカーナのサンタナ・ディ・スタッツエーマで住民400人を虐殺。そして9月29日から10月5日にかけて、ボローニャ近郊のマルザボット村では住民771人が殺された。こうして殺された犠牲者の中には、パルチザン活動とは無関係な女性や老人、そして多くの子供たちが含まれていた。本作『やがて来たる者へ』は、マルザボットの虐殺事件を住民の視点から描いた作品だ。

 物語の舞台はマルザボット村のモンテソーレ集落で、1943年のクリスマスを人々が祝う場面から始まる。両親や親戚が集まる大家族の中で暮らしている8歳の少女マルティーナは、少し前に生まれたばかりの弟が亡くなって以来、まったく口をきかなくなってしまった。それが原因でいじめられたりからかわれたりすることもあるが、マルティーナは決して口を開こうとしない。村はドイツ軍の統治下にあるが、パルチザンのメンバーも自由に出入りする。村人たちは心情的にはパルチザンを支援しながら、ドイツ軍の徴発にも応じなければならないという状況なのだ。それでも村はいたって平和。ボローニャの町から、空襲を避けるため疎開してくる人もいるくらいだ。しかし季節が春から夏へと移行していく中で、こうした平和は少しずつ失われて行く。村ではドイツ軍の兵士を見かける機会が増えてくる。遠くの爆撃の音が聞こえてくるようになる。集落のすぐ近くで、ドイツ軍とパルチザンの衝突が起きるようになる。ドイツ軍が村の食料や家畜を、強制的に徴発して行くようになる。村にはケガをしたパルチザンが担ぎ込まれてくる。そして9月29日の虐殺が始まる……。

 第二次大戦中の農民たちの暮らしを、丁寧に再現する描写が見事だ。歴史を後から振り返る我々は、当時の人々の暮らしが戦争という時代背景の中で、戦争を前提に成り立っていると思い込んでしまう。でも実態は違う。人々の生活は何十年も前から少しも変わらない。戦争はそこに、外部から忍び寄ってくるのだ。ある日突然、何かが起きるわけではない。戦争は少しずつ日常の中に混ざり合い、それが新しい日常になって行く。戦争込みの日常に最も早く順応するのは子供たちであり、戦争で最も早く犠牲になるのもまた子供たちだ。

(原題:L'uomo che verra)

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10月22日公開予定 岩波ホール
配給:アルシネテラン
2009年|1時間57分|イタリア|カラー|シネスコ|ドルビー・デジタル
関連ホームページ:http://www.alcine-terran.com/yagate/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:やがて来たる者へ
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