カウントダウンZERO

2011/08/23 パラマウント試写室
冷戦後に生じている新しい核戦争の恐怖を徹底解説。
原発も危ないが原爆はもっと危ない。by K. Hattori

Countdownzero  福島第一原子力発電所の事故で周辺に大量の放射性物質がまき散らされ、日本では脱原発の世論が盛り上がっている。広島長崎での被爆体験から核兵器に対して断固「NO!」と言ってきた日本人が、「原子力の平和利用」という口当たりのいい言葉に騙されていたことに気づいたのだ。今年は広島や長崎の平和式典でも、原発についてどのような言葉が発せられるかにマスコミや世間の注目も集まった。しかし我々はここで何か錯覚しているのかもしれない。現在の世界が抱えている「核の問題」は原発が主であり、核兵器の問題は冷戦という過去の歴史の問題だと思い始めているのではないだろうか。映画『カウントダウンZERO』はそれに対して断固「NO!」を突きつける。核兵器は今もなお、世界を崩壊の危機にさらし続けている。その危険性は冷戦時代とまったく変わらない。いやむしろ、限られた国々が核兵器を独占的に管理していた時代に比べると、現代の方がよほど核兵器の危険度が増していると考えられるくらいなのだ。

 20世紀前半は2度の世界大戦の時代で、その中で人類は初めて核エネルギーを手にし、それは広島と長崎への原爆投下という形で実際に使用された。20世紀後半はアメリカとソ連の2大国が大量の核兵器を装備して互いを威嚇し、恐怖のバランスによってかろうじて新たな核戦争の危機を乗り切った時代だった。この間に東西両陣営の間で核兵器が拡散して行くが、20世紀の終盤にソ連が崩壊して恐怖均衡の危うい軍拡競争は終わり、核戦争の恐怖は消え去ったかに思えた。だが明るい未来を人類に約束するはずの21世紀は、NY貿易センタービルに民間旅客機を突入させるというテロリズムで幕を開ける。国家権力や国際社会の圧力に統制管理されない世界規模のテロ組織が、なりふり構わず無差別殺戮を行う時代がやって来たのだ。テロ組織にとって、旅客機を高層ビルに突っ込ませるより、大量の爆弾を体に巻き付けた人間が人混みの中で自爆するより、1発の核弾頭を入手する方がずっと効率がいい。テロリストは核兵器を欲している。テロ組織が核兵器を手に入れようとしている証拠も山ほどある。だが幸いなことに、現時点で核テロは起きていない。しかしこれは、テロリストには核兵器が渡らないように、各国で厳重な監視や管理が行き届いているからではない。これまで運良く、そうした機会がなかっただけなのだ。現在の核管理体制が続けば、いずれ人類史上初の核テロリズムは起きる。それは遠い将来ではなく、そう遠くない未来に必ず起きる。この映画はそう警告している。

 核テロについて考える際の問題点は、それがあまりにも巨大で深刻であることだ。深刻すぎる問題から、人は無意識の内に目をそらせる。見なかった振り、気づかない振りをする。映画には核問題に無知な一般市民のインタビューが数多く紹介されているが、こうした無知がなければ人は安心して生きていけないだろう。

(原題:Countdown to Zero)

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9月1日公開予定 TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー
配給:パラマウント・ピクチャーズ ジャパン
2010年|1時間29分|アメリカ|カラー
関連ホームページ:http://www.to-zero.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:カウントダウンZERO
関連DVD:ルーシー・ウォーカー監督
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