ゴーストライター

2011/08/05 松竹試写室
無名のゴーストライターが元英国首相の過去の闇を暴く。
ロマン・ポランスキー監督のサスペンス。by K. Hattori

Gostwriter  元英国首相アダム・ラング。若くして国政のトップに上り詰めた、ハンサムでカリスマ性のある政治家だ。現在は政治の世界から一歩退いて、講演や執筆活動をしている。そんなラングの自叙伝執筆を依頼されたゴーストライターは、超タイトなスケジュールと前任者の不審死からこの仕事に乗り気になれなかったが、代理人は破格の報酬によだれをたらさんばかりで仕事を受けてしまう。ちょうど講演にやってきたラングに会うため東海岸の彼の私邸を訪れると、折しもテレビではラングの戦犯疑惑について報道しているところだった。これでは自伝どころの騒ぎではない。ゴーストライターは前任者の書き残した原稿に、少しずつ赤ペンを入れはじめるのだが……。

 ゴーストライターとは表向きの著者に成り代わって、原稿を書いたりまとめたりする職業的な物書きのこと。本人にインタビューしてそれをまとめることもあれば、本人に会うことすらなく資料から原稿を作ってしまうこともある。矢沢永吉の自伝「成りあがり」は糸井重里がインタビューをもとにまとめたものだが、このように実際の執筆者の名前が表に出てくることはまれだ。ほとんどの場合は裏方仕事として、淡々と仕事をこなしている。原稿は買いきりの場合がほとんどだが、売れっ子のゴーストライターは本の売上から一定の印税を受け取る場合もあるそうだ。タレントや政治家など、もともとプロの物書きではない人が書いた本は、ほとんどの場合ゴーストライターが関わっていると見て間違いない。ライター向けの求人サイトでは堂々と「ゴーストライター募集」などの案内が出ているぐらいで、出版業界ではもはや公然の存在となっている。

 本作『ゴーストライター』では、主人公のゴーストライターが最初から最後まで名前のない匿名の存在になっているのがミソ。彼が依頼主である元英国首相ラングに出会って開口一番述べたのが、「僕はゴースト(幽霊)です」という自己紹介だった。だが問題は彼が誰のゴーストなのかだ。もともとはアダム・ラングのゴーストとして引き受けた仕事だが、物語が進展していくうちに、彼は自分の前任者マイク・マカラの後を追うようになってくる。既に死んだ男にははっきりした名前があるのに、今生きている主人公はゴーストという肩書きしか与えられていない皮肉。やがて主人公は、ラングの代筆者ではなく、死んだマカラの幽霊として振る舞いはじめるのだ。ひとりのゴーストライターが、死んだゴーストライターのゴースト(幽霊)になる。この映画を支配しているのは、映画冒頭に死体として登場したマイク・マカラなのだ。

 アダム・ラング役のピアース・ブロスナンが、傲慢で、自信に満ち、得体の知れないカリスマ政治家を、存在感たっぷりに演じている。この役はトニー・ブレアがモデルではないかと言われたそうだが、僕自身は小泉純一郎を連想した。

(原題:The Ghost Writer)

Tweet
8月27日公開予定 ヒューマントラストシネマ有楽町、ヒューマントラストシネマ渋谷
配給:日活 宣伝:ムヴィオラ
2010年|2時間8分|フランス、ドイツ、イギリス|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル、DTS
関連ホームページ:http://ghost-writer.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ゴーストライター
DVD:The Ghost Writer
原作:ゴーストライター(ロバート・ハリス)
原作:The Ghost Writer(Robert Harris)
サントラCD:The Ghost Writer
関連DVD:ロマン・ポランスキー監督
関連DVD:ユアン・マクレガー
関連DVD:ピアース・ブロスナン
ホームページ
ホームページへ