マーガレットと素敵な何か

2011/08/02 ショウゲート試写室
世界を飛び回って働くヒロインに過去の自分から手紙が届く。
主演はソフィー・マルソー。by K. Hattori

Margaret  マーガレットの仕事は、世界中に巨大な工場設備を売り込むこと。同僚であり私生活のパートナーでもあるマルコムとのコンビで、世界各地を飛び回っては巨大な商談を次々にまとめ上げて行く。馬車馬のように働く、しかしこの上もなく充実した日々。しかし彼女のそんな生活は40歳の誕生日を迎えた日、突然会社を訪れた老人と、彼が差し出した1通の受領証によって打ち破られてしまう。彼女が受け取ることに同意したのは、自分が7歳だった頃、大人になった自分に向けて送った手紙。それは彼女が心の奥に封印してた、少女時代の思い出を開くものだった……。

 脚本・監督は『世界で一番不運で幸せなわたし』のヤン・サミュエル。本作は『猟奇的な彼女 in NY』に続く彼の3作目だ。主人公マーガレットを演じるのは、フランスを代表する大女優ソフィー・マルソー。ただし映画としては小粒で、チャーミングではあるが満腹感のない、プチデザートのような映画になっている。マルグリットが大人になったマーガレットに送る手紙を、写真を切り抜いたアニメーションで表現する場面などはじつに可愛い。しかし過去からの手紙にうろたえ、平常心を失い、オロオロし、ニヤニヤし、時に号泣するヒロインの姿に、僕は違和感を感じてしまう。映画のリアリズムを損なっているような気がするのだ。

 彼女が自分自身の過去に動揺し、自分自身の過去と和解したいという気持ちになる理由そのものは、映画の後半になって少しずつ明らかになってくる。しかし彼女が7歳のときに閉ざし、その後30年以上も固く固く封印し続けてきた心の扉を開くのに、会社に届いた1通の手紙(手紙以外にもいろいろあるわけだが)というのはインパクトが弱すぎるのではないだろうか。少なくとも僕は、この手紙によって彼女がこれほど狼狽することに納得が出来ない。ずっと平静を保っていたのが、ある瞬間にバチンと破裂して扉が開かれるとか、小さな心の揺れが徐々に大きくなって行くとか、何かしらの手続きなりプロセスなりが必要なのではないだろうか。ソフィー・マルソーが心の動揺を表情として見せてくれる百面相は、観客にとってはなかなか面白い見せ物なのだが、脚本の作りとしてもう少し細かく、ヒロインの心境変化を見せた方がよかったような気がする。

 過去の自分から届いた手紙で現在の自分の生き方が変えられてしまうというアイデアは面白いが、そのアイデアをうまく映画の中で花開かせることが出来なかった。主人公(現在と過去)以外に核になる人物がおらず、物語がすべて主人公の内面で完結してしまっていることも、映画が小粒になってしまった原因だと思う。主人公の恋人、初恋の相手、弟、公証人などの誰かを、ヒロインの心の旅の同伴者にすれば、話がもう少し広がっただろうに。ヒロインの単独行では、広がるはずの物語も大きくは広がらない。

(原題:L'age de raison)

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9月公開予定 シネスイッチ銀座
配給:アルシネテラン
2010年|1時間29分|フランス、ベルギー|カラー|シネマスコープ|SR、SRD
関連ホームページ:http://www.alcine-terran.com/margaret/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:マーガレットと素敵な何か
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