ゲキ×シネ

薔薇とサムライ

2011/05/27 アキバシアター
女海賊アンヌは王族の血を引く最後の王位継承者だった。
劇団☆新感線の人気舞台を映像化。by K. Hattori

Barasamu  17世紀初頭のイベリア半島。地中海を荒らし回る海賊船のみを襲撃し、「海賊を襲う海賊」として恐れられている美しい女海賊がいた。その名はアンヌ・ザ・トルネード。女ばかりの海賊団だが、アンヌたちは男勝りの度胸と行動力で近隣の海賊たちから一目も二目も置かれる存在だ。その用心棒は、天下の大泥棒・石川五右衛門。だがアンヌは港を領する王国の近衛兵に、銃で脅され拉致されるように城に連行されてしまう。アンヌがそこで聞かされたのは、自分が亡き国王の忘れ形見にして、唯一の王位継承者であるという事実。国王亡き後、王国の実権を握る大宰相ラーカムの横暴を阻止するためには、正統な後継者であるアンヌが女王にならねばならない。アンヌは持ち前の男気(?)から、新女王への就任を決意。だが海賊上がりの新女王に突きつけられた最初の仕事は、かつての仲間を敵に回した海賊掃討作戦だった……。

 劇団☆新感線の同名舞台公演をデジタル撮影し、劇場スクリーンで上映する「ゲキ×シネ」第9弾となる最新作。内容的には09年の『五右衛門ロック』の続編にあたるようだが、そんなことはまったく無関係に楽しめるアクション・エンタテインメント作品だ。主人公は天海祐希扮するアンヌ・ザ・トルネードで、古田新太の石川五右衛門は狂言回し。五右衛門にからんで賞金稼ぎのデスペラード豹之進(演じるのは山本太郎)が登場したりするが、五右衛門と豹之進はこの物語の中で、彼らでなくても用が足りる役回り。『五右衛門ロック』のファンには物足りないかもしれないが、僕のように前作未見だった観客には、まったく独立した作品として楽しめる本作のような作りは好都合だ。  舞台劇の収録ということもあって、映像作品としてはややチグハグなところもある。例えば台詞の一部をスクリーン上に文字として大書する演出が、映画版では文字が切れて読めなくなっている。舞台のどこを強調するかという問題なのだが、アップになった人物の背後に文字が少しだけ見えていたりすると、「あれは全体としてはどう書いてあるのだろう?」と気になってしまう。しかしそれ以外はじつに面白い。ミュージカルを媒介にして、歌と踊りと剣劇と、紅毛カツラの偽外人が見事に調和してしまう。天海祐希は宝塚出身だけあって、今回の役柄などはまさに水を得た魚のよう。アンヌと隣国の王子シャルルのデュエットは名場面で、その後にあるオチも含め、感動するやら笑うやらで涙が出そうになった。上映時間3時間17分で、途中休憩を入れると約3時間半の夢物語。入場料はちょっとお高いが、それに見合う満足は得られると思う。  「ゲキ×シネ」はデジタル対応劇場向けの映画外コンテンツ(ODS)だが、松竹の「シネマ歌舞伎」や東宝の「タカラヅカ レビュー シネマ」など、同様のコンテンツは続々と増えている。まだマイナーなジャンルだが、下手な映画よりよほど面白いことは間違いない。

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6月25日公開予定 新宿バルト9ほか全国ロードショー
配給:ヴィレッヂ、ティ・ジョイ
2011年|3時間17分|日本|カラー
関連ホームページ:http://www.bara-samu.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:薔薇とサムライ
楽曲収録アルバムMP3:岡崎司[WORKS-2]ベスト・オブ・ザ・劇団☆新感線
書籍:薔薇とサムライ
関連DVD:劇団☆新感線
関連DVD:古田新太
関連DVD:天海祐希
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