ジーザス・キャンプ

アメリカを動かすキリスト教原理主義

2010/11/16 TCC試写室
アメリカを神権国家にしようと夢見るキリスト教福音派の政治運動。
その尖兵として訓練される子供たちの姿。by K. Hattori

Jesuscamp  アメリカの福音派の牧師ベッキー・フィッシャーが主催する、クリスチャンの子ども向けのサマーキャンプを取材したドキュメンタリー映画。中心はこのキャンプの様子だが、映画はそこに参加する子供たち何人かをピックアップしてその生活を丁寧に取材し、福音派の主張に反対する立場のクリスチャンの声も拾っている。おそらくこの映画を観た日本人の多くは、この映画に登場する福音派クリスチャンの姿にびっくりすると思う。そこに描かれているのは、日本人がこれまで親しんできたハリウッド製の映画やテレビドラマに登場する教会やクリスチャンの姿とは、あまりにもかけ離れているからだ。聖霊の力によるとされる異言(いげん)や、キリスト教の教えに沿った歌詞が付いたクリスチャン・ロック、悪いことは何でもかんでもサタンのせいにする教え、クリスチャン専門ラジオ局、進化論や中絶を頭ごなしに否定する人たち、道行く人に聖書や神の教えについて語りかける子供たち。おそらくこれらすべてをひっくるめて、「まるでカルト宗教だ!」という印象を持つのではないだろうか。そして「アメリカ人はやっぱどっかおかしいよな〜」と思うかもしれない。つまり対岸の火事なのだ。

 しかしだ、僕はこうしたアメリカ流の福音派教会が、日本でも着々と勢力を伸ばしていることを知っている。そこではもちろん進化論が否定されるし、聖書の言葉は一言一句すべてが神の言葉で誤りがないと信じられている。教会の中では異言が語られ、聖霊のバプテスマによって新生していない者はたとえ洗礼を受けていたとしても本当のクリスチャンではないとまで言われる。カトリックのマリア崇敬や位階制度を偶像崇拝だと非難し、宗教改革以来の伝統を持つ主流派のプロテスタント教会を「死んだ信仰」と軽蔑する。自分たちに対する批判があれば、それはすべてサタンによる攻撃だ。こうした教会を知っている人からすると、『ジーザス・キャンプ』に登場する福音派の教会は身近な問題だ。映画の中で福音派に批判的なリスナーがぼやいていた「彼らの信仰は我々が知っているキリスト教とは違う」という言葉は、現在多くの日本人キリスト教徒からも聞かれるものになっている。

 映画『ジーザス・キャンプ』から読み取るべきは、福音派のおかしげな信仰ではない。彼らが子どもを巻き込んだ政治運動によって、どんな国を作ろうとしているかが問題なのだ。彼らは政治的には右翼のナショナリストであり、アメリカが「キリスト教主義国家」になることで国力と威信を回復できると信じている。「自分たちの信仰」と「アメリカの繁栄」を強く結びつけたこのような確信は、もちろん日本の福音派の教会には見られない。僕は映画に登場する福音派の姿から、日蓮の「立正安国論」を連想した。じつは福音派のキリスト教と日蓮系の新宗教(創価学会も含む)は、似ているところが多いのだ。

(原題:Jesus Camp)

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12月25日〜1月10日公開予定 渋谷アップリンク・ファクトリー
「リアル!未公開映画祭」にて上映
配給:アップリンク
2006年|1時間27分|アメリカ|カラー
関連ホームページ:http://www.mikoukai.net/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ジーザス・キャンプ ~アメリカを動かすキリスト教原理主義~
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