リッキー

2010/09/16 シネマート銀座試写室
貧しいカップルの間に生まれた赤ちゃんは「天使」だった。
フランソワ・オゾン監督のファンタジー映画。by K. Hattori

Ricky  シングルマザーのカティは務めている工場で新人工員パコと親しくなり、やがて彼はカティの部屋で一緒に暮らすようになる。ふたりの間には赤ん坊が生まれてリッキーと名付けられるが、パコに赤ん坊の世話を任せてカティが外出から帰ってくると、リッキーの背中には大きな青あざ。パコが赤ん坊を虐待していると考えたカティは彼を強く責め、彼を家から追い出してしまう。だがそれは虐待ではなかった。間もなくリッキーの背中から、小さな翼が生えてきたのだ。翼は少しずつ大きくなり、リッキーは部屋の中をパタパタと飛び回るようになる。この事実を周囲に隠し通していたカティだったが、ある日買い物に出たスーパーでリッキーが店内を飛び回ったことから大騒ぎに。テレビでこれを見たパコは大慌てで家に戻ってくるのだが……。

 監督は『8人の女たち』や『スイミング・プール』のフランソワ・オゾン。主演はフランスでコメディエンヌとして有名だというアレクサンドラ・ラミーと、『ナイト・トーキョー・デイ』で菊地凜子と共演していたスペイン人俳優セルジ・ロペス。オゾン監督の映画はいつも何かしら「たくらみ」や「仕掛け」があって観客を楽しませるのだが、今回の映画では現実社会の中に「天使」が現れるというファンタジー風の映画を作った。赤ん坊の背中に翼が生えてくる特殊造形や、翼の生えた赤ん坊が空中をフワフワと飛び回る特撮や合成など、これまでのオゾン作品にはあまりなかった表現だと思う。

 貧しいカップルが子供として「天使」を授かる話なんて、それを文字通りに受け止めるなら荒唐無稽なおとぎ話でしかない。だがどんなおとぎ話も、その背後にはリアルな現実が横たわっている。おとぎ話には解釈がたっぷりあるので「これが正しい解釈だ」と決めつけてしまう必要はないが、僕はこの映画を「障害を持って生まれてきた子供を失ってしまう夫婦の物語」や「我が子を不注意による事故で失ってしまった夫婦の物語」だと解釈した。赤ん坊の背中の翼は、この一家に必ずしも幸福を呼び込んでくるわけじゃない。近所の人たちは赤ちゃんを「モンスター」呼ばわりするし、医者も「このままでは赤ん坊は衰弱死してしまう」と予言する。行動の予想が付かない子供が傷つかないよう、家中の家具にクッションを付けたり、幼い子供にヘルメットやプロテクターで重装備させるのも、ある種の障害を持ってきた子供の家なら日常的に行っていることのはずだ。

 家の中に赤ん坊が来ることで、夫婦関係がどう変化して行くかという点が、じつにリアルに描かれていることに感心した。カティの留守中、パコが赤ん坊のおむつを替えるシーンなどは経験者ならついニヤニヤしてしまうだろう。フランソワ・オゾンは「女性映画の巨匠」扱いされているようだが、じつは登場する男性の描写もしっかりしているのだ。ま、一流の監督であれば当たり前のことではある。

(原題:Ricky)

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お正月公開予定 Bunkamuraル・シネマ
配給:アルシネテラン
2009年|1時間30分|フランス、イタリア|カラー|アメリカンビスタ|DTS、SRD
関連ホームページ:http://www.imdb.com/title/tt1189076/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:リッキー
関連DVD:フランソワ・オゾン監督
関連DVD:アレクサンドラ・ラミー
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