白いリボン

2010/09/09 京橋テアトル試写室
20世紀初頭、北ドイツの小さな村を襲った邪悪な怪事件。
カンヌ映画祭パルムドール受賞作。by K. Hattori

Shiroiribon  1913年7月。北ドイツの小さな村で、診察から帰ってきた医師が落馬して大ケガを負う。原因は自宅前に張られていた1本の針金。何者かの手による作為的な出来事だが、犯人は見つからなかった。翌日、小作人の妻が地主である男爵の製材所で事故死する。小作人の息子はそのことで男爵を恨み、収穫祭の日に男爵のキャベツ畑を荒らす。同じ日、男爵の息子が行方不明になり、真夜中過ぎに発見されたときは何者かに暴行を受けていた。男爵は翌日の礼拝で、村人たちの中に犯人がいると告発。村の中には不穏な空気が流れ始めるのだが、事件はそれだけでは終わらなかった……。

 『ファニーゲーム』や『ピアニスト』のミヒャエル・ハネケ監督による、2時間半を越える大作映画。全編モノクロの映像で、20世紀初頭の北ドイツの暮らしを再現していく。物語は一種の犯罪ミステリーと言っても構わないかもしれない。次々に起きる事件の中には、犯人が明確にわかっているもの(キャベツ事件)もあれば、事故や自殺など原因がはっきりしているものもある。だが他のほとんどの事柄は、劇中で犯人が明らかにされることはない。一部の事件については犯人が推測できるものの、何が起きているのかさっぱり要領を得ない事件もある。例えば語り手である教師の恋人が、ピクニックに行くのを固く拒んだ理由は映画を観ていてもわからない。こうしたわからないことを、人はわからないままに放置しておく。教師は自分の恋人に本当の理由を尋ねない。牧師は自分の子供たちに、本当は何があったのかを尋ねない。尋ねてしまえばその向こう側に、知るべきではない恐ろしい何かがあるかもしれない。だから黙っている。だがそうした沈黙の闇の中で、邪悪な者たちはさらに活動を広げていくのだ。

 映画は村にはびこる邪悪な存在の活動を描きながら、その実体を最後までは暴かない。それは感染した者を知らぬ間に蝕んでいく病原菌のように小さな村の中にじわじわと手を広げていくのだが、このあたりはラース・フォン・トリアーの『ドッグヴィル』や『マンダレイ』を連想させる。村人たちが取り繕い、隠し通してきた真実が、今まさに明らかになろうという時、それはより大きな「戦争」という暴力によってかき消されてしまう。映画を観ている者にとって、村で起きている出来事が戦争を呼び込んだかのように見えるのが面白い。もちろん両者にはまったく何の関係もないのだが、人は別々に起きた無関係な出来事を結びつけて、そこに何かしらの関係性を求めてしまうものだ。

 物語は老人となった教師が、過去の出来事を回想するという形式を取っている。そこではあらかじめ「語る内容がすべて事実かどうかはわからない」とされ、物語全体をより曖昧で謎めいたものにしている。だが手がかりは多い。映画を最後まで観た人は、きっと映画をまた最初からもう一度観たくなるだろう。

(原題:Das weisse Band - Eine deutsche Kindergeschichte)

Tweet
12月公開予定 銀座テアトルシネマ
配給:ツイン 宣伝:ザジフィルムズ
2009年|2時間24分|ドイツ、オーストリア、フランス、イタリア|白黒|1:1.85|DTS、ドルビーデジタル
関連ホームページ:http://www.
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:白いリボン
関連DVD:ミヒャエル・ハネケ監督
関連DVD:クリスティアン・フリーデル
関連DVD:レオニー・ベネシュ
関連DVD:ウルリッヒ・トゥクール
関連DVD:フィオン・ムーテルト
関連DVD:ミヒャエル・クランツ
関連DVD:ブルクハルト・クラウスナー
ホームページ
ホームページへ