脇役物語

2010/08/17 京橋テアトル試写室
万年脇役に甘んじている男と新人女優の恋の行方。
益岡徹はこれが初主演映画だとか。by K. Hattori

Wakiyaku  役者として十分な実力を持ちながら、これまで一貫して脇役に甘んじている松崎ヒロシ。顔も名前も世間ではまったく認知されておらず、どこに行ってもその場にいそうな別の誰かに勘違いされることが多い。だがそんな生活も間もなく終わる。じつは近々製作が正式発表される新作映画で、初めて主演に抜擢されたのだ。ところが彼はたまたま運の悪いことに、とある大物代議士夫人の不倫相手だと勘違いされてしまう。代議士は映画のスポンサーに手を回して、ヒロシを映画の主役から降板させてしまった。彼は誤解を解いて再び映画の主役に復帰できるのだろうか? 親しくなった新人女優アヤとの恋の行方は?

 ヒロシを演じるのは大ベテランの益岡徹。さまざまなドラマや映画に出演している俳優だが、主演映画は今回が初めてなのだとか。ヒロシの恋人(?)アヤを演じるのは永作博美。ヒロシの父親役には津川雅彦。配役は豪華だ。しかし僕はこの配役が、そもそも映画の内容に似つかわしいとは思えなかった。この登場人物たちは、いったい役の上で何歳ぐらいに設定されているのだろうか? 映画の中には具体的な年齢が語られるシーンがないのだが、益岡徹は1956年生まれの54歳。仮に俳優の実年齢と役柄の年齢がほぼ同じだとすると、この年齢で「誰にも名前と顔を知られていない脇役専門俳優」というのは結構キビシイ状態だろう。舞台中心の俳優や、主として声優として仕事をしている俳優が、キャリアの割には一般にまったく名前や顔を知られていないということは十分に有り得るのだが、ヒロシの場合はほとんどテレビドラマの仕事がメインだというし、舞台の仕事をしている気配はまったく見えない。この役はもっとずっと若く、例えば30代後半から40前後程度でないと成り立たないのではないだろうか。もっと不可解なのは、1970年生まれで今年40歳になる永作博美が、コンビニでバイトしながらニューヨーク留学を夢見る「新人女優」のアヤを演じていることだ。永作博美を悪く言うつもりはまったくないが、これは明らかに不自然なキャスティング。この役は20代半ばか、せいぜい30まででないと成立しないはずだ。

 映画なんてものはどうせウソなのだから、何歳の俳優が何歳の役を演じようが勝手と言えば勝手だ。しかし映画というのは舞台上の芝居と違って、カメラの前の対象をそのままありのままに写してしまうものでもある。80歳の森光子が「放浪記」で20代の林芙美子を演じるのは、舞台の上でならアリだ。しかし同じことを映画で行うことは、それが特殊な演出上の意図を持っていない限りは不可能だろう。映画はたとえフィクションであっても、カメラと被写体の間には「対象をありのままに写す」というドキュメンタリー的な関係しか生じない。優れた映画はそうした関係性を「映画的な虚構」へともう一段変換するのだが、この映画はそこまで到達していないように思える。

10月23日公開予定 ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
配給:東京テアトル 宣伝:ビターズ・エンド 宣伝協力:スキップ
2010年|1時間37分|日本|カラー|アメリカンビスタ|Dolby SR
関連ホームページ:http://www.wakiyakuthemovie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:脇役物語
関連DVD:緒方篤監督
関連DVD:益岡徹
関連DVD:永作博美
関連DVD:津川雅彦
関連DVD:松坂慶子
ホームページ
ホームページへ