インセプション

2010/08/13 TOHOシネマズ錦糸町(スクリーン1)
レオナルド・ディカプリオが他人の夢の中に入り込む。
予告編以上の驚きがまったくない残念作。by K. Hattori

Inception  産業スパイのドム・コブは、ターゲットの夢の中に入り込んで秘密のアイデアを盗み出すこの道のスペシャリスト。だが彼はこの技術のせいで妻を失い、故郷で待つ子供たちにも会えない国際手配のお尋ね者になっていた。だが彼の技術を見込んでサイトーという男が新しい仕事を依頼してくる。成功した際の報酬は、コブの過去を消して子供たちに会えるようにすること。子供との再会を願うコブはこの申し出に飛びつき、「インセプション」という難しい仕事を引き受けることにする。これはターゲットの夢の中からアイデアを「盗み出す」のではなく、逆にターゲットの夢の中に外部から新しいアイデアを「植え付ける」こと。しかしそのためには、相手の夢の奥深くまで潜り込まねばならない。それは一歩間違えれば、相手の夢の中に取り込まれ、二度と外に出られない危険があることを意味していた。コブは腕利きの仲間を集めて、この危険な仕事に挑戦するのだが……。

 公開される前からの話題作で、僕が行った映画館も(夏休み中だということもあるだろうが)ほぼ満席だったのだが、この映画は本当に面白いんだろうか? 映像は確かにすごい。しかしその映像は映画本編を観る前から予告編で観ているものだから、「スゴイ!」とは思っても新鮮味はない。予告編よりは長い時間、それらの映像が堪能できるというだけのことだ。だから予告編を観てから映画を観た人間にとって、この映画に期待するものは映像ではなく「物語」そのものなのなはず。少なくとも僕は、この映画に対して「映像効果のスゴサ」に匹敵する「スゴイ物語」を期待した。でもこの映画に、その「スゴイ物語」はあっただろうか? 僕にはどうにも期待はずれなのだが……。

 心理学で夢のメカニズムを少しでも勉強した人なら、他人の夢をコントロールしたり、ましてや夢の中に入り込むといった事が現実には不可能なものであることがわかるだろう。人間が夢を見ている時間は、実際のところほんの数秒に過ぎない。その数秒の間に脳内でイメージされる雑多な情報が、目覚める直前に「物語」に再構成されているのが夢なのだ。夢の中に入り込んで対象者の脳内イメージを仮に第三者が観察できたとしても、そこから作り出される「物語」は観察者自身の持ち合わせる物語のパターンに合わせて変化してしまう。そんなわけで夢に入り込む装置については、もう少しそれらしい技術的な説明が欲しかったようにも思う。

 夢の世界を圧倒的なビジュアルで再現した映画としては、既に『マトリックス』シリーズという先行作品がある。夢と現実を等価の存在とする発想は、「胡蝶の夢」や「邯鄲夢の枕」といった中国古典文学の世界では馴染み深いものだ。新鮮味があまりない。主人公が自分の作りだした世界に閉じ込められているという設定では、同じレオナルド・ディカプリオの『シャッターアイランド』という先行作品もあった。僕はやはり『インセプション』に、新しい何かを感じられないでいる。

(原題:Inception)

7月23日公開 丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
(7月17日・18日・19日 先行公開)
配給:ワーナー・ブラザース映画
2010年|2時間28分|アメリカ|カラー|シネマスコープ|ドルビーデジタル、STS、SDDS
関連ホームページ:http://wwws.warnerbros.co.jp/inception/mainsite/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:インセプション
サントラCD:インセプション
サントラCD:Inception
シナリオ:Inception: The Shooting Script
関連DVD:クリストファー・ノーラン監督
関連DVD:レオナルド・ディカプリオ
関連DVD:渡辺謙
関連DVD:マリオン・コティヤール
関連DVD:エレン・ペイジ
関連DVD:ジョセフ・ゴードン=レヴィット
関連DVD:キリアン・マーフィ
ホームページ
ホームページへ