乱暴者の世界

THE INDEX GUN

2010/08/11 映画美学校試写室
彼は自分の意思で「自分の世界」を作る力を持っていた……。
話のアイデアが抜群に面白い。by K. Hattori

Ranbomono  小さなライブハウスでDJをしている恵介は、恋人のあゆみと同棲をはじめて2年になる。ある日、恵介とあゆみがレストランで食事をしていると、そこにふらりと奇妙な男が入ってくる。その男は食事の後、ティッシュペーパーで支払いを済ませて店を出て行った。恵介はこれを男の催眠術だと考えたのだが、その数日後、恵介のバイト先にやってきた男は「僕の世界から出て行け」と言う。その男カミオは、宇宙の中に無限に存在するパラレルワールドを自由自在に移動しながら、自分にとって都合のいい世界を自分の周囲に造り上げているのだ。彼こそが世界の創造主。しかしその世界に、なぜか恵介という異分子が紛れ込んでいる。カミオが世界を移動し再創造するたびに、恵介もそれに付いてくるのだ。恵介をどうしても世界から追い出せないと知ったカミオは、世界の誰もカミオの存在を認めない世界を造り上げるのだが……。

 話のアイデアが面白い。パラレルワールドという設定があるから、一応これはジャンル的に「SF」ということでもあるのだが、SFのニオイのようなものはあまりしなかった。これは日本人の多くが「ドラえもん」にもはやSFのニオイを感じないのと同じだろう。ここでパラレルワールドが持ち出されているのは、そこにSF的な理屈をこじつけるためであって、その設定自体は検証や批判の対象にはなっていない。必要なのは「カミオが自分の意思で思い通りの世界を作り出せる」ということだ。

 この映画では何度も「自分の世界」という言葉が出てくる。これをカミオのような能力で思うがままに創造した、言わば自分自身が神になった世界という意味に限定してしまうと、この映画は単なるSFモドキのドタバタになってしまう。カミオが恵介に突きつけているのは、誰にでも経験できるもっと普通のことだ。自分の理想とする生き方、自分の生きたい生き方、それが実現された自分にとって好ましい世界を作るために、自分の力で何か努力をしているのか?というのがカミオの問いかけなのだ。恵介はカミオが言うように、「自分は才能がある特別な人間だ」と思いながら、自分自身では何ひとつとして特別な努力をしない人間だ。常に受け身で、他人の作った世界の中に寄生してぬくぬくと生きている。自分は特別だから、特別な庇護を受けて当然だという甘え。それをカミオは打ち砕く。

 恵介はカミオの作った世界で、文字通り「何者でもない人間」にさせられてしまう。だがここからの奮闘とサバイバルこそが、この映画の一番の見どころ。何者でもない人間が、何者かになろうともがく時、そこに「自分の世界」が生まれる。恵介の作った世界が、少しずつカミオの世界を侵食して行くくだりは、フィリップ・K・ディックの「地図にない町」のようなスリルがある。

 生きるとは、他者と格闘しながら自分の世界を切り開いてゆくことなのだ。映画の後味は爽やか。カミオの笑顔が清々しい。

10月9日公開予定 シアターN渋谷ほか全国順次ロードショー
配給・宣伝:フリーマン・オフィス
2010年|1時間48分|日本|カラー|ビスタサイズ|5.1chステレオ
関連ホームページ:http://movie-indexgun.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:乱暴者の世界 THE INDEX GUN
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