ソルト

2010/07/23 スペースFS汐留
アンジェリーナ・ジョリー主演のスパイ・アクション映画。
ハードな設定とアクションは見応えあり。by K. Hattori

Salt  イヴリン・ソルトはCIAのエージェント。表向きはアメリカの石油会社に勤務しているのだが、この会社はCIAがカモフラージュ用に設立したダミー会社なのだ。しかし厳重に秘密が管理されているはずのこの会社に、ある日ひょっこりとロシアの大物スパイ、オルロフがやってくる。彼はアメリカ国内に潜入しているロシアのスパイによって、間もなく重大なテロが行われるはずだと警告する。ターゲットはアメリカ副大統領の葬儀に出席するためアメリカにやってくるロシア大統領で、テロリストとなる潜入スパイはソルトなのだという。突然スパイの嫌疑をかけられたソルトは、身柄を拘束しようとする同僚たちの手を振り切って脱出。自宅に戻ると隠してあった銃や弾薬を手にして、再び街の中に姿を消す。彼女が向かったのは、副大統領の葬儀が行われる教会だった……。

 アンジェリーナ・ジョリー主演のスパイ・アクション映画。一般市民を装ったスリーパー(潜入スパイ)というモチーフは、つい先日アメリカでロシアの美人スパイ、アンナ・チャップマンが逮捕されて話題になったばかりだからじつにタイムリー。そんなわけで映画の設定そのものは007やMIシリーズなどよりずっと現実的なのだが、その設定から思い切り物語の大風呂敷を広げてみせる豪腕ぶりには感心した。おそらく作り手は潜入スパイの実態などを細かく取材しているはずで、取材過程では映画が何本も作れそうな面白い話がいくらでも聞けたはず。しかしこの映画ではそうした取材結果を、映画の味付けに使うのみなのだ。話はスケールの大きなホラ話だが、その味付けとして現実的なディテールを散りばめていく。細部のリアリティをおろそかにしていないからこそ大きなウソが付けるという、映画の基本原則に忠実なのだ。

 アンナ・チャップマン事件でも思ったことだが、東西冷戦が終わってアメリカとロシアが友好的な共同歩調を取り始めている現在、米露間にどのようなスパイ活動の余地があるのかはちょっと疑問ではある。米露間に深刻なスパイ戦争を成り立たせる仕掛けや動機をでっち上げることこそが、この映画における最大の難所だったのではないだろうか。オルロフは「ロシアのスパイがロシアの大統領を暗殺する」と言う。何のためにそんなことをするのか。アメリカ国内でロシア大統領を暗殺し、米露関係を険悪化させることによって、一体誰がどんな得をするというのか。アメリカの政府中枢をロシアのスパイがずたずたに破壊した後、誰がどのような形で世界の覇権を握ろうとしているのか。もっともこれは話の大風呂敷を広げるだけ広げて、風呂敷の端に手が届かなくなってしまっているような気がしなくもない。ラストシーンは続編を期待させるような幕切れにも見えるが、単に作り手が話にうまく決着を付けられないまま、無責任に主人公を物語の外に放り出してしまったように思えてしまう。

(原題:Salt)

7月31日公開予定 丸の内ピカデリーほか全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
2010年|1時間40分|アメリカ|カラー|スコープサイズ|SDDS、ドルビーデジタル、ドルビーSR
関連ホームページ:http://www.salt-movie.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ソルト
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