ナイト・トーキョー・デイ

2010/07/20 映画美学校試写室
菊地凛子扮する女殺し屋がターゲットの男に恋をする。
東京の闇に浮かぶ偽りの恋の物語。by K. Hattori

Nighttokyoday  『死ぬまでにしたい10のこと』や『あなたになら言える秘密のこと』のイザベル・コイシェ監督が、菊地凛子を主演に迎えて撮ったフィルムノワール風のラブストーリー。物語の舞台は東京。大手企業の社長令嬢が自殺し、娘を溺愛してきた父親は死んだ娘の恋人だったスペイン人に責任があると強く思い込む。秘かに彼女を愛していた社長の部下は、社長と自らの気持ちに決着を付けるためスペイン人を殺そうと決意し殺し屋を傭う。殺し屋の名はリュウ。毎日深夜から早朝にかけて築地の魚河岸で働くという表の顔を持ちながら、これまで何人ものターゲットを始末してきた女殺し屋だ。彼女は依頼を遂行するためターゲットであるスペイン人の男ダビに接近していくのだが、あろうことか彼と恋に落ちてしまうのだった……。

 女性殺し屋リュウを演じるのが菊地凛子。ターゲットのスペイン人ダビを演じるのはセルジ・ロペス。娘に自殺されて以来精神に変調を来してゆく社長役は中原丈雄。その部下でリュウに殺しを依頼する男に榊英雄。さらに物語の語り手である録音技師を田中泯が演じている。実力も存在感もたっぷりと兼ね備えたキャストだが、この顔ぶれはどうにも地味で華やかさがない。しかも物語の発端はひとつの「死」であり、物語の結末も「死」で終わる。物語の背景として登場するのはほとんどが夜の街や室内で、全体にツヤのない鈍く黒みがかった画面は重苦しい。そこに語り手である田中泯のぼそぼそと喉の奥から絞り出すようなナレーションがかぶさってくるのだから、この映画が明るく楽しくハッピーなものになるはずがない。

 物語は田中泯扮する老録音技師の「回想」という形式を取っている。語り手である彼はリュウとの思い出をすべて過去形で語るのだ。しかしこの録音技師は、必ずしも信頼のできる語り手ではない。録音技師はすべての出来事を、過去に実際に起きたこととして語っているが、ここで紹介されている出来事の多くは彼の目に直接触れないところで起きている。録音技師とリュウが親しかったのは事実なのだろうし、リュウがスペイン人の男に恋をして、その恋が悲劇的な結末を迎えたのは事実かもしれない。でもリュウが殺し屋だったという話は事実だろうか? 娘に自殺された男が、リュウに死んだ娘の恋人だった男の始末を依頼したというのも事実なのだろうか? 僕にはどうもそれがどうも怪しく思える。

 記憶の中では、すべての過去が捏造されてしまう。それがこの映画のひとつのテーマでもある。娘に死なれた社長は、娘の記憶を美化しているし、自分と娘の関係も極度に理想化している。リュウに殺しを依頼した男も、死んだ娘と自分との間にあり得たかもしれない別の関係を理想化している。そして彼らは、スペイン人を諸悪の根源だとして断罪してしまう。自分の都合のいいように、過去はねじ曲げられてしまうのだ。ならば録音技師が持つリュウの記憶も、やはり捏造に違いないのだ。

(原題:Map of the Sounds of Tokyo)

9月11日公開予定 新宿武蔵野館
配給:ディンゴ
2009年|1時間38分|スペイン|カラー|ビスタサイズ|ステレオ
関連ホームページ:http://www.
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ナイト・トーキョー・デイ
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