おにいちゃんのハナビ

2010/07/02 ショウゲート試写室
病気の妹に励まされて引きこもりの兄が奮起するが……。
花火に託す人々の思いに涙。by K. Hattori

Onihanabi  高校生の少女・華(はな)が半年間の入院から退院して家に戻ると、この春に高校を卒業したばかりの兄・太郎が引きこもりになっていた。両親は華を心配させまいと、これまで太郎のことを伏せていたのだ。季節は夏の終わり。地元新潟県小千谷市片貝町では、町民総出の花火大会が賑やかに行われている。兄を心配する華は友人たちと共謀して無理矢理太郎を家の外に連れ出したり、強引に新聞配達のアルバイトを決めて働かせたりと、兄の社会復帰のため大忙し。だが太郎がようやく仕事にも身を入れ始めた矢先、華の病気が再発してまたもや入院。急性白血病の再発は、そのまま命に関わる。病院でも気丈に振る舞う華だったが、家族や友人たちの願いも虚しく彼女は帰らぬ人となってしまう……。

 「瑠璃の島」や「夢をかなえるゾウ」など、多くのテレビドラマを演出してきた国本雅広の劇場用長編映画デビュー作。実話がもとになっているらしいが、そういうことを抜きにしても感動的な映画に仕上がっていると思う。ジャンルとしては「難病もの」ということになるのだろう。難病に倒れて若い命を散らす美少女と、それを見守る家族の交流と絆。しかしこの映画はそこに、新潟県小千谷市片貝町という土地でしか生まれないローカル色を織り込んでいるのがいい。この町で毎年9月に行われる「片貝まつり」では、町民たちが打ち上げる「奉納煙火」が名物になっている。中学校の同級生たちが集まって、自分たちが二十歳の成人式を迎えた年に花火を奉納するのだ。この同級会はその後も厄年や還暦など人生の節目ごとに、みんなで資金を出し合って花火を打ち上げる。他にも子供の誕生、結婚、誕生日、長寿祝、追善や年忌など、町の人たちの暮らしは生まれる前から死んだ後まで花火と共にある。映画は物語の中にこの風習を折り込み、郷土色豊かな人間ドラマを紡いでゆくのだ。

 脚本は『半分の月がのぼる空』やテレビドラマ「怪物くん」の西田政史で、今年は映画で難病ものが2本続いてしまった格好。『半分の月がのぼる空』も上手いと思ったが、今回の映画も観光映画チックな描写と家族のドラマの融合が見事。奉納花火や成人会の制度を説明するなど、映画を観る上でどうしても必要な情報を巧みに物語前半で処理しつつ、映画後半では物語に登場した人たちが全員花火大会に集合する山場を作ってる。

 日本人にとって打ち上げ花火は夏の風物詩なのだが、なぜその季節が夏なのかというと、これはお盆の送り火と深く結びついた風習なのだという。亡くなった家族や祖先の霊を迎え入れ、再び送り出すのが日本のお盆であり、花火大会はいわばそのクライマックスなのだ。片貝の花火がどんな由来のものかは知らないが、「花火=送り火」という知識が頭の片隅にでもあると、映画のクライマックスとなる花火大会のシーンで感動は2倍にも3倍にもなるはず。これは家族にとって少女の霊を見送る、2度目の別れのシーンなのだ。

9月11日公開予定 新潟先行公開
9月25日公開予定 有楽町スバル座ほか全国ロードショー
配給:ゴー・シネマ 宣伝:樂舎
2010年|1時間59分|日本|カラー|1:1.85|ドルビーSR
関連ホームページ:http://hanabi-ani.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
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