シャングリラ

2010/06/29 松竹試写室
事故で子供を失った女性が子供の残した地図に従い旅に出る。
中国雲南省シャングリラの風景は美しい。by K. Hattori

Chugoku2010  2年前に交通事故で子供を失って以来、ジー・リンの時間は止まってしまった。事故の責任を認めようとしない加害者側との裁判では敗訴し、夫は事故のことを忘れたかのように仕事に復帰している。夫婦の関係は壊れ、家庭の中はメチャクチャだ。そんな時、ジー・リンは息子が残した宝探しの地図を見つける。ヒントをたどってたどり着いたのは、雲南省のチベット族自治州シャングリラにある聖なる山。ジー・リンは考える間もなく、シャングリラに向かって旅立った。そこで彼女は、息子の残した宝物を見つけることができるのだろうか?

 「チップス先生さようなら」の原作者として知られるジェームズ・ヒルトンが、小説「失われた地平線」に登場させた理想郷シャングリラ。この小説はベストセラーとなり、映画化もされたので、シャングリラは地上の楽園、人々の目から隠されたユートピア(これも小説に登場する理想郷の名前)の代名詞となった。シャングリラとは、この世に存在しない架空の世界なのだ。とりあえずは、それが20世紀の常識だった。ところが2001年12月、雲南省デチェン・チベット族自治州の中甸県は、国際的な観光客誘致のため県の名前を正式に「シャングリラ(香格里拉)」に改称。こうしてこの世に存在しないはずの理想郷シャングリラは、21世紀になってこの地上に忽然と実在することになったのだ。

 この映画『シャングリラ』に登場するのは、ヒルトンの小説に出てくる理想郷ではなく、雲南省にある現実のシャングリラ(香格里拉)。しかしそこは同時にファンタジーの国でもあって、ヒロインはそこで超自然的な体験をすることになる。この点についてあまり論じるとこれから映画を観ようとする人の楽しみを奪ってしまいかねないので控えるが、この映画に登場するシャングリラの風景は、そうした超自然的な出来事をいかにも現実に起こりえそうに感じさせるに十分だ。ヒマラヤの風景や、独特の民族衣装、言葉や風習の違い。それは近代化したビルが並ぶ都市の暮らしに比べれば、『ロード・オブ・ザ・リング』や『ナルニア国物語』の世界にずっと近い。そこでは現実の世界では起こりえないことが、容易に起こり得る。

 ヒロインの心の旅を綴る映画としてはそれほど悪くないと思うのだが、周辺の人間たちに少しずつ腑に落ちないところがあって、それが映画の脆弱さになっているようにも思う。例えばジー・リンの夫がもう少し丁寧に造形されていると、映画の最後に夫婦の選び取った選択にもドラマが生まれたのではないだろうか。事故の加害者夫婦もそうだ。何よりよくわからないのは、ジー・リンを追いかけてシャングリラまで行ってしまう若い男。彼の正体は最後に明かされた(?)のかもしれないが、彼が何のためにジー・リンを追いかけていたのかは結局のところよくわからない。シャングリラを紹介する観光映画としてはよくできているのだけれど……。

(原題:這几是香格里拉 Finding Shangri-La)

7月24日〜8月27日「中国映画の全貌2010」にて公開 新宿K's cinema
配給:グアパ・グアポ
2008年|1時間47分|中国、台湾|カラー
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DVD:シャングリラ
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