おのぼり物語

2010/05/07 京橋テアトル試写室
マンガ家として唯一連載していた雑誌が上京直後に休刊に!
同じ自由業としては身につまされるなぁ。by K. Hattori

井上芳雄 from おのぼり物語 [DVD]  連載が月刊誌に1本だけという零細マンガ家カラスヤサトシは、故郷大阪で会社に勤めながらマンガを描いていたが、30歳を目前に周囲の反対を押し切るように会社勤めを辞めて単身上京。零細マンガ家に相応しい零細な木賃アパートを見つけ、零細な暮らしをスタートさせたのだが、その直後に連載を持っていた零細マンガ誌が休刊。零細マンガ家のカラスヤサトシは、マンガ家志望の無職・片岡聡(本名)になってしまった。周囲を振り切るように男一匹上京したからには、ここで大阪に逃げ帰るわけには行かない。なんとか安アパートにしがみついて次の仕事を探そうとしていると、泣きっ面にハチで今度はそのアパートが取り壊しになると言うではないか! そこに大阪の実家から電話。父親が倒れて入院したという。いっそこのまま、東京を引き払って大阪に戻ってしまおうか。そう思っていた矢先、以前持ち込みをした出版社から小さな穴埋め仕事の依頼が……。

 マンガ家カラスヤサトシの自伝的マンガ「おのぼり物語」を、ミュージカル俳優の井上芳雄主演で映画化した作品。(念のために言っておくなら、主人公は歌わないし踊らない。)監督はこれがデビュー作となる毛利安孝。原作は未読だし、そもそも他作品も含めて原作者のマンガをこれまで一度も読んだことがないのだが、映画は観ていて身につまされるものだった。僕も30歳で会社を辞めて映画批評家と名乗って仕事をするようになり、あちこちの雑誌に出入りし、連載を持っていた雑誌の休刊も何度か経験している。「この連載さえあればなんとか生活が成り立つ」という頼みの綱が、ある日突然プッツリと断ち切られてしまう心細さ。デザイナー時代も何度か転職しているし、勤めていた会社が事務所をたたむというので解雇されたこともあるが、それとはまったく別種の心持ちだ。ところが不思議なことに、捨てる神あれば拾う神あり。ひとつの雑誌で連載が終わると、ちょうど同じタイミングで別の雑誌から新しい仕事の依頼があったりする。フリーの物書き稼業はまったく綱渡りのようなもので、およそ安定とはほど遠い。その不安定さに不安を感じながら、一方でそれを面白がれる余裕がないと、フリーの仕事を職業にすることはできないのだと思う。

 何者でもない人間が何者かになろうともがく姿を描くのが青春映画であり、その点でまさにこの映画は青春映画そのものだ。何者かになりたいともがいて、もがいて、もがき続けて、結果としてその夢破れてしまう者もいる厳しい現実。夢が叶うことと、夢が叶うことなく終わることの差はどこにあるのか? それは本人の努力か? 才能か? それとも運か? がんばるしかないことはわかっている。でもがんばりだけではどうしようもないことだってあるのだ。主人公が共に東京で夢を追い掛けていたカメラマン志望の女友達と、新橋駅前でバッタリ出くわしてしまうシーンが印象的だ。

7月17日公開予定 ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次ロードショー
配給:東京テアトル 宣伝:アールグレイフィルム
2010年|1時間54分|日本|カラー|ヴィスタ|DTSステレオ
関連ホームページ:http://www.onoborimonogatari.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:おのぼり物語
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原作:おのぼり物語(カラスヤサトシ)
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