華麗なるアリバイ

2010/05/06 松竹試写室
アガサ・クリスティの「ホロー荘の殺人」をフランスで映画化。
芝居の駆け引きが楽しいチャーミングな作品。by K. Hattori

Kareinaru  アガサ・クリスティの原作「ホロー荘の殺人」は、かつて日本でも『危険な女たち』(1985年、野村芳太郎監督)というタイトルで映画化されている有名な作品。クリスティ作品の名探偵エルキュール・ポアロが登場するシリーズの1編だが、クリスティ自身の脚色した戯曲版ではポアロを登場させず、日本映画である『危険な女たち』にももちろんポアロは登場せず、今回のフランス版でも登場していない。これにはもちろん、物語を謎解きミステリーより恋愛がらみの人間ドラマにしたいという作り手の意図もあるのだろうが、それより物語の舞台を現代にしてリアルなドラマを作ろうとすると、部外者である名探偵が推理を巡らして「犯人はあなただ!」と名指しするタイプの物語は成立しないということだと思う。それはもう「名探偵コナン」のようなコミック作品や、2時間のサスペンスドラマといったルーティンワークの中でしか成立し得ないものなのだ。登場人物たちは名探偵に真相解明の役割を委ねるのではなく、誰もが犯人探しに知恵を絞り、誰もが疑心暗鬼になり、誰もが間違いを犯し、やがて誰にもわかる形で犯人が浮かび上がってくるのだ。

 上院議員のアンリ・パジェスは週末を田舎の大きな家で過ごし、時折そこに親戚や友人たちを招くことを楽しみにしていた。プール付きの大邸宅にはゲストルームが多数あり、趣味の狩猟と護身用にコレクションしている猟銃やピストルが武器庫にはずらりと並ぶ。だがその日は、呼ばれたゲストの顔ぶれが既にかなり物騒なものだった。パジェスの妻エリアーヌが、パリの有名な精神科医ピエール・コリエとその妻クレールに加え、女性芸術家のエステル、アル中の作家フィリップなどをゲストに呼んだのだ。ピエールとエステルが愛人関係にあることは、妻クレール意外は誰もが知っている公然の秘密だ。ところがフィリップはそれを知りつつエステルにぞっこん。隠れたところで恋のさや当てが火花を散らす。さらにこの日、エリアーヌの友人だというスペシャルゲストが招かれていた。それはイタリア人の女優レアだ。じつはレアとピエールは10年前の恋人同士。レアに振られたピエールは、それを忘れるためにクレールと結婚したといういきさつがある。偶然の再会でピエールとレアはあっと言う間にもとの「関係」に戻ってしまう。そして翌日、プールのそばでピエールが殺された。その傍らに青ざめた顔で震えるクレールの手には、一丁の拳銃が握りしめられていた……。

 主要人物だけでも10人ぐらいいて、それぞれの関係がいちいちわかりにくいというのが欠点と言えば欠点。しかしそれが映画を観ている上でのフラストレーションにはならないのは、この映画が謎解きそのものより、謎の前で右往左往する人間たちのやり取りを描くことに主眼を置いているからだろう。映画の最後にはもちろん犯人がわかる。しかしこの事件の本当の犯人は、この状況を作り出したパジェス夫妻だろう。

(原題:Le grand alibi)

夏公開予定 Bunkamuraル・シネマほか全国順次ロードショー
配給:アルバトロス・フィルム 宣伝:グアパ・グアポ
2007年|1時間33分|フランス|カラー|1.85:1|ドルビーSR
関連ホームページ:http://aribai-movie.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:華麗なるアリバイ
原作:ホロー荘の殺人(アガサ・クリスティ)
関連DVD:パスカル・ボニゼール
関連DVD:ミュウ=ミュウ (2)
関連DVD:ランベール・ウィルソン
関連DVD:ヴァレリア・ブルーニ・テデスキ
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