モダン・ライフ

2010/04/05 ショウゲート試写室
フランス南部の山間部で暮らす農民たちの暮らし。
先祖伝来の生活はこうして消えてゆく。by K. Hattori

Modern Life (2008) ( La vie moderne ) ( Country Profiles: Modern Life ) [ NON-USA FORMAT, PAL, Reg.2 Import - United Kingdom ]  ドキュメンタリー作家で写真家でもあるレイモン・ドゥパルドンが、フランスの山間部で昔ながらの農業を営む人々を10年がかりで取材したドキュメンタリー映画。傾斜の強い山間部では、平野部のように大きな畑を作って大規模農業をするわけにはいかない。人々は山あいの小さな土地に畑を開き、傾斜地では羊や牛を飼って暮らしてきた。だがその暮らしは今、大きく変わろうとしている。高齢化と後継者不足で、農家の数が減っているのだ。小さな土地に一族が固まって暮らす家族経営の農業は閉鎖的で、外部からの新規参入が難しい。農家の家の跡継ぎは結婚できない。結婚しても、子供たちは家の仕事を離れて村を出て行ってしまう。おそらく日本の農村でも見られる、農民たちの暮らしの偽らざる姿だ。

 試写の案内ハガキを見て、僕はこれを勝手に「農業礼賛映画」だと思い込んだ。都会では失われてしまった、素朴で純粋な生活が農村にありますよ……的な、都会人の田舎への郷愁を誘うような……、そんな映画だろうと思っていた。でもこの映画は、農家が抱える厳しい現実を描いている。大上段から農業の未来がどうのこうのだの、国の農政がどうしたこうしたなどと訴えることはない。これはまるで政治とは無縁の映画だ。カメラは農村から一歩も外に出て行くことなく、農民たちの暮らし自体にレンズを向ける。だがそこからは、農民たちの暮らしが決定的に変化してしまったことが見えてくる。あと10年もすれば、この農民たちは滅ぶだろう。おそらく過去何百年にもわたって営々と築き上げられてきた農民たちの暮らしが、今まさにこの地上から消え去ろうとしている。この映画はそんな滅びゆく種族を記録した、貴重なドキュメントでもある。

 この映画が優れているのは、こうした滅びゆく農村の姿をつぶさに見つめながら、作り手が「農業を守れ」とか「国はこうした人たちを保護しろ」などと声高に叫ばない点にある。山間農地の不便で零細な暮らしを嫌がって若者たちが村を離れていくとき、その不便で零細な暮らしの中に留まっていろと部外者が言うことはできない。映画の中では「お父さんの仕事(農業)を継ぎたい」という幼い息子に向かって、父親が「お前は別の仕事に就け」と諭す場面が出てくる。先祖伝来の農業を息子に譲って悠々自適の隠居生活を送っている老いた両親の横で、中年になった息子が皮肉たっぷりの口調で農業に対する不平不満をぶちまける場面が出てくる。これが農業の現実なのだ。

 同じようなことは、今の日本にもそのまま当てはまる。高齢化と後継者不足。農村の若者は職を求めて都会に移動し、農村には老人だけが残される。でも日本の農家が「滅びゆく種族」だと考える日本人が、いったいどれだけいるだろうか? そして滅びゆく日本の農民たちを、この映画のように美しく、気高い人々として記録してくれる人がどこにいるだろうか?

(原題:La vie moderne)

6月中旬公開予定 シアター・イメージフォーラム
配給:エスパース・サロウ
2008年|1時間30分|フランス|カラー|シネマスコープ|ドルビーSRD
関連ホームページ:http://www.espace-sarou.co.jp/modernlife/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:モダン・ライフ
関連DVD:レイモン・ドゥパルドン監督
関連DVD:Raymond Depardon
関連書籍:Raymond Depardon
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