パリ20区、僕たちのクラス

2010/04/02 京橋テアトル試写室
今どきの子供たちと真剣に格闘する中学教師の姿。
カンヌ映画祭パルムドール受賞作。by K. Hattori

Pari20ku  パリ市内の公立中学校で働く、ひとりの教師の1年間を追った作品。ドキュメンタリーではないが、この映画はとてもドキュメンタリー的だ。出演している生徒たちは、演技経験のない本物の中学生たち。撮影も撮影所のセットではなく、実際の学校を借りて行われ、登場する教師たちも本物だという。映画の主人公で、担任する生徒たちに手をやく国語教師フランソワを演じているのは、この作品の原作者でもあるフランソワ・ベゴドー。彼は実際に数年間、中学校で国語教師をしていた経験を持つ作家だ。この教師以下、登場人物たちはほとんどが映画の中に「本名」で登場する。そしてそこに描かれているエピソードは、どれも現実に起こりえるリアルな日常風景ばかり。日本とフランスとの学校運営制度の違いに驚かされることもあるが、そこに描かれている教師と生徒の関係や、生徒たちの抱えている問題は、日本と共通するところも多いと思う。

 制度的な違いで最も驚かされるのは、義務教育である中学校に生徒を退学処分にする権限が与えられている点だ。これは映画の中盤で、教室で問題を起こした生徒を退学にするか否かというかなり大きなエピソードとして扱われる。退学になった生徒は、他の学校に転校して行く。(退学処分を決めた学校が、次に生徒を受け入れる学校を紹介するようだ。)これは日本の常識で考えるとトンデモナイことのようにも思えるのだが、生徒の問題行動が学校や他生徒との関係の中で生じる場合、転校というのはひとつの対症療法的な手段として有効かもしれない。映画の中では他校を退学になって転入してきた生徒が、特に大きな問題も起こさず新しい環境に適応していく様子が描かれている。

 制度的な違いで驚いた2点目は、生徒の成績を決める職員会議に、生徒代表が出席して意見を述べていること。日本の学校の成績評価というのは生徒や保護者の側からすると完全なブラックボックスで、そこで教師たちが寄ってたかってよからぬことをしているのではないか……という疑惑が生まれたりもする。ずっと以前にテレビドラマの「金八先生」だか「中学生日記」だかで、進学する生徒の内申点を加算するため、就職希望の生徒から評価点を融通するというエピソードがあった。しかし生徒が見ている目の前で、こうした不正はできないだろう。もちろん生徒を職員会議に参加させるのは、それはそれで大きな問題もあるのだが……。

 こうした制度的な違いを除けば、フランスの中学生もやはり中学生。授業中に教師に反抗してみたり、悪態を付いたり、ふて腐れたりしつつ、認められれば嬉しいし、家では両親に頭が上がらないなど、子供っぽいところがたっぷり残っている。教師が生徒の振る舞いに腹を立てたりするところもあるのだが、それも生徒を「子供扱い」して「大人として振る舞う」余裕がないからでもある。移民問題などフランスの抱える社会問題も描かれているが、僕はこの映画に出てくる中学生の造形に感心した。

(原題:Entre les murs)

6月12日公開予定 岩波ホール
配給:東京テアトル 宣伝:ムヴィオラ
2008年|2時間8分|フランス|カラー|シネスコ|サウンド
関連ホームページ:http://class.eiga.com/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:パリ20区、僕たちのクラス
原作:教室へ(フランソワ・ベゴドー)
関連DVD:ローラン・カンテ監督
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