フェーズ6

2010/03/10 ブロードメディア・スタジオ試写室
致死性の病原体から逃れるため車で海を目指す若者たち。
サバイバルの先にあるものとは。by K. Hattori

Carriers  致死率100%という猛毒性の新型感染症で、人類がひとり残らず滅びようとしている近未来。感染を避けてわずかな生の可能性を求める者たちは、汚染された町や人を避けながら安全地帯を目指す。ブライアンとダニーの兄弟は乗り捨ててあったベンツを拝借して、子供時代を過ごしたことがある海辺を目指す。同乗者はブライアンの恋人ボビーと、ダニーの知り合いの少女ケイトという若者4人の旅。ガソリンを満タンにした高級車は砂漠の一本道を軽快に走る。だがその行く手をさえぎる1台のワゴン車。「ガソリンを少し分けてくれないか」と言いながら近づいてきた中年男の背後の車には、血の付いたマスクをした少女が見えた。感染者だ! あわてて逃げ出した4人だったが、ほんの少し走ったところで車は故障。炎天下の砂漠から抜け出すには、さっきの感染者親子の車を奪うしかない。乗り捨てる車からガソリンを抜き取り、親子のいる車まで戻るのだった……。

 映画の雰囲気としては『ゾンビ』の系統だろう。違いは謎の病原菌に感染した人間がゾンビに変身するのではなく、ただ死んでしまうという点だ。無数のゾンビが主人公たちを襲うようなショッキングなビジュアルがないため、この映画はひどく見た目が地味だ。死体の山が築かれて猛烈な悪臭が周囲に立ちこめるとか、穴の中で死体を焼く煙が町を包み込むといったシーンもない。この映画の中ではそうした大量死のピークが、既に過ぎていることになっている。投げ捨てられたり放置されている死体袋もあるが、それよりむしろ、町が静かにゴーストタウン化しているのだ。主人公たち以外に生き残っているのはほんのわずか。そのわずかな生き残りたちも、少しずつ確実に死に近づいている。

 地味な映画ではあっても、ドラマ的な見せ場はある。そのほとんどは感染した仲間たちを切り捨てていくシーンだ。感染者との長期間接触は危険。だから彼らを、車から追い出して放置していくのだ。ひょっとするとこれが、『ゾンビ』もの(正統シリーズやリメイク版や亜流バリエーションなど山のように映画があるけれど)にはないこの映画の新しさかもしれない。この映画では減った人間に対して、ほとんど何の感心も払われない。車から降りた人間が生きようが死のうが、誰もそれを気にしないのだ。彼らはただ、画面から消えてしまう。これが恐い。

 人間はなぜ生きるのか? 人間はなぜ死ぬのが恐いのか? その理由のひとつは、人間が社会的な存在であることをやめられないことにある。人は自分の死に何か意味がないと、死んでも死にきれない。誰かの役に立つ死を迎えたいなどと、大げさなことを言っているわけではない。人は自分の生と死を、誰かに記憶して欲しいのだ。だがこの映画に描かれるのは、そうした社会性と切り離された意味のない死。死に意味がなくなった世界では、じつは生きることにも意味がなくなっている。主人公は最後に、それを悟るのだ。

(原題:Carriers)

4月24日公開予定 シネマスクエアとうきゅう
配給:ブロードメディア・スタジオ、ポニーキャニオン 宣伝:フリーマン・オフィス
2009年|1時間25分|アメリカ|カラー|シネマスコープ
関連ホームページ:http://www.
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:フェーズ6
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