ドン・ジョヴァンニ

天才劇作家とモーツァルトの出会い

2010/03/03 京橋テアトル試写室
歌劇「ドン・ジョヴァンニ」の作者ダ・ポンテの伝記映画。
『アマデウス』と併せてみると面白いかも。by K. Hattori

Dongiovanni  希代の色事師ドン・ファンの伝説をモチーフに、天才作曲家モーツァルトが作曲したオペラ「ドン・ジョヴァンニ」。その脚本を書いたのが、イタリアの詩人で劇作家のロレンツォ・ダ・ポンテだった。この映画は「ドン・ジョヴァンニ」の成功をクライマックスにした、ダ・ポンテの伝記映画。モーツァルトの他にも、ウィーンに亡命したダ・ポンテを皇帝に紹介したアントニオ・サリエリ、ドン・ファンばりの愛と冒険の人生を生きた実在の色事師ジャコモ・カサノヴァなどが登場する。映画の時代背景や舞台は、モーツァルトを主人公にした映画『アマデウス』と重なり合う。『アマデウス』に出てきた狡猾そうな宮廷人サリエリに比べて、この映画に出てくる彼のなんと貧相なことか。しかしむしろこの方が、サリエリの実像に近いのかもしれない。

 映画『アマデウス』では「ドン・ジョヴァンニ」という作品に放蕩息子モーツァルトの姿が投影されているという解釈を取っていたが、この映画ではそれとは異なり、「ドン・ジョヴァンニ」とはまず第一にジャコモ・カサノヴァであり、彼の薫陶を受けたダ・ポンテ本人だという解釈に立っている。モーツァルトは主要登場人物ではあっても、この映画の中では外野の第三者に過ぎない。映画の原題は『Io, Don Giovanni』だが、そこに『天才劇作家とモーツァルトの出会い』という日本語の副題を付けたのは、映画の内容をかなりミスリードするものかもしれない。もちろん映画にはダ・ポンテとモーツァルトの出会いも描かれているから、この副題はウソではない。しかしこの映画の中心人物をあえてふたりに絞り込むなら、それはダ・ポンテとカサノヴァだ。

 カサノヴァはダ・ポンテにドン・ファン伝説のオペラ化を提案し、そこに自らが理想とする開明的な自由主義者としての「自画像」を投影する。カサノヴァにとって、伝説のドン・ファンとは自分自身なのだ。しかしダ・ポンテもドン・ファン伝説に自らの姿を投影する。この映画は、ドン・ファンという人物を自らに引き寄せようとする男たちの駆け引きを描いたドラマであり、いわばドン・ファンを頂点としたダ・ポンテとカサノヴァの三角関係のドラマなのだ。

 映画の中ではダ・ポンテが超イケメンのモテモテぶりを発揮し、出会う女性たちを片っ端からものにしていく。次から次に女性を食い物にしていく男が、運命の恋人に出会うと彼女に対してはしおらしくなって手も足も出ないという展開は、日本のラブコメマンガにもよくある王道パターン。書き割り風のセットや美術もユニークで、これが物語の中で「虚構であるドン・ファン伝説」と「実際のダ・ポンテの人生」の境界をかき消してしまう。もともとユダヤ人だったダ・ポンテがキリスト教に改宗するという導入部も面白かったが、フリーメイソンに加入したダ・ポンテが、同じくメイソンであるモーツァルトとメイソン式の握手をするシーンなども興味深い。

(原題:Io, Don Giovanni)

4月公開予定 Bunkamuraル・シネマ、銀座テアトルシネマ
配給:ロングライド 宣伝:アルシネテラン
2009年|2時間7分|イタリア、スペイン|カラー|スコープサイズ|ドルビーSR、SRD
関連ホームページ:http://www.don-giovanni.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:ドン・ジョヴァンニ/天才劇作家とモーツァルトの出会い
関連DVD:カルロス・サウラ監督
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