イエロー・ハンカチーフ

2010/02/17 松竹試写室
山田洋次監督の『幸福の黄色いハンカチ』を米国でリメイク。
主演はウィリアム・ハート。by K. Hattori

Yellowhankachi  山田洋次監督の名作『幸福の黄色いハンカチ』を、アメリカでリメイクした作品。この企画自体はずいぶん前から進んでいて、10年以上前に奥山和由プロデューサーから製作が公式発表されたこともある。しかしその後、奥山融社長と奥山和由プロデューサーが松竹を解任され、この話は一度流れてしまった。しかしリメイク計画自体はその後も水面下で進んでいたようで、映画はウィリアム・ハートとマリア・ベロ主演で2008年に完成。各地の映画祭などに出品された後、今回いよいよ日本公開が決まったのだ。話題のリメイク作なのに、なぜ映画が2年間も放置されていたのか? それは映画を観ればすぐにわかる。要するにつまらないのだ。名作のリメイクが凡庸な作品になることはよくあるが、この映画は凡庸以下の、普通にだめな映画になっている。

 リメイク版は基本的にオリジナルに忠実だ。細かなサイドエピソードの中には、驚くほどオリジナルを忠実になぞっている部分がある。例えばウィリアム・ハート(オリジナルにおける高倉健の役)が無免許運転で警察に引っ張られると、そこにたまたま顔なじみの警官がいてねぎらいの言葉をかけられるというエピソードがある。オリジナル版ではこの警官を渥美清が演じていて映画の重苦しい雰囲気が少し和やかになるのだが、リメイク版ではこの警官登場のきっかけにケータリング(出前)の女性が登場するところまでオリジナルをなぞっている。またオリジナル版では武田鉄矢扮する若い男がカニを食って腹を下すのだが、リメイク版ではこれがザリガニに変更されてそのまま生きている。

 しかしこのリメイク版、こうした細かな部分ではオリジナルにやけに忠実なくせに、肝心なドラマの根幹部分に大きな変更を加えて全体を台無しにしている。最大の変更点は、刑務所を出たばかりの中年男と同じ車で旅をする若いカップルの年齢を、高校生に引き下げてしまったこと。これでは二組のカップルの恋愛話が同時進行して、最後に二組の男女が無事に結ばれるというオリジナルの構成がまったく生きないではないか。リメイク版の中では若い女の抱えている父親との確執や、若い男が親を失って先住民の居留地で育てられていたという設定が加えられたりしているが、こうした要素がこの映画にどんな意味を付加しようとしたのかがわからない。最悪なのはオリジナル版が持っていた巧みな構成を壊して、中年男の過去を映画前半である程度観客に知らせてしまう構成に改めたこと。これでは映画後半の告白が軽くなる。

 『幸福の黄色いハンカチ』と『イエロー・ハンカチーフ』はまったく同じストーリーを持つ2本の映画だ。しかし映画の面白さはストーリーではなく、それを「どう語るか」で決まるのだ。映画とは語りの内容ではなく、語りの段取りや手順で面白くもなればつまらなくもなる。これは観る者にそれを痛感させるリメイク版だった。

(原題:The Yellow Handkerchief)

6月26日公開予定 東劇ほか全国ロードショー
配給:松竹 宣伝:ザジフィルムズ
2009年|1時間36分|アメリカ|カラー|2.35:1|ドルビーデジタル、DTS、SDDS
関連ホームページ:http://www.yellow-handkerchief.jp/
関連ホームページ:The Internet Movie Database (IMDb)
DVD:イエロー・ハンカチーフ
オリジナル版:幸福の黄色いハンカチ(1977)
原作収録:ニューヨーク・スケッチブック(ピート・ハミル)
関連DVD:ウダヤン・プラサッド監督
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